漁村の活動応援サイト
vol.1
2021.6.9

地域漁業と漁村コミュニティの実態
並びに女性の役割に関する研究

2020年9月に、香取弘子・三木奈都子・副島久実・関いずみの4名が中心となって、「一般社団法人うみ・ひと・くらしネットワーク(うみひとネット)」を立ち上げました。

うみひとネットは、将来にわたって持続する豊かな農山漁村、人々が元気に生き生きと暮らしていくことができる時代の地域社会づくりに寄与することを目的に活動します。具体的には、女性たちの活動の支援や情報発信、調査研究などを行っていきたいと考えています。

このページでは、うみひとネットが東京水産振興会の補助を受けて行っている調査研究の報告をしたいと思います。

うみ・ひと・くらしネットワークのロゴマーク

この研究は東京水産振興会の補助を受け、2018年から開始しました。研究メンバーは、三木奈都子(国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所養殖部門養殖経営・経済室)、関いずみ(東海大学海洋学部)、副島久実(摂南大学農学部食農ビジネス学科)、DELANEY ALYNE(国立大学法人東北大学東北アジア研究センター)の4人です。

現在、漁業者数や漁村人口の減少や高齢化によって、限界集落化している漁村が増加しています。地域漁業や漁村は漁場条件や蓄積された漁業技術、保有している漁船や漁具、漁協などの地域組織の在り方等によって多様です。さらに近年は住民の世帯構成や価値観の急激な変化によって変容しています。

現在、水産資源の維持の重要性が強調されていますが、資源と漁業者は産業である漁業の両輪であり、仮に資源が豊富でも漁業者がいないと漁業は成立しません。そして、資源管理を含めた漁場利用関係の調整は、地区内の漁業者が合意形成を図りながら行われています。

漁業者の経営は漁村の漁業操業に関わる取り決めに大きく影響され、漁業者は個別に自由に漁業を行うわけにはいかないという制約を受けます。反面、漁場利用の工夫、例えば今後の地域漁業の重要な担い手である若年漁業者が安心して生活していけるような調整を図ることによって、地域漁業と個別経営の状況を改善させることもできると考えられます。また、漁村女性たちの起業活動等も地域の継続に寄与しているとみられます。

[写真1]
写真1:地域の力で高齢者介護事業を続けている
(長崎県対馬市上対馬町)

私たちはこれまでうみ・ひと・くらしフォーラムの活動として、シンポジウム・研修会の開催や情報収集・発信等の漁村起業グループのサポート活動を実践的に進めるなかで、女性たちが起業活動を通じて雇用の創出や原料としての地元水揚水産物の買い上げ等の経済的側面だけでなく、地域に活力を与えたり関係者の生活満足度を高めたりするなどの効果を確認しています。それ以外にも環境保全活動や高齢者介護活動などを行うなど、一貫して漁業と生活、環境の結びつきと地域の継続につながる活動を行い、漁村コミュニティにおいて女性が果たしている役割が大きいと認識しています。また、近年、世界的なくらしと水産資源、環境の持続可能性への関心の高まりから、海外でも小規模漁業や家族経営、漁業に従事する女性に注目が集まりつつあります。

この研究では、地域漁業と漁村コミュニティの実態と漁村における住民のそれらに対する評価、女性活動の役割について把握し、今後の小規模沿岸漁業と漁村コミュニティの継続と展開を展望していくことを目的としています。

[写真2]
写真2:小規模漁村ながら月に1回の朝市を継続し、顧客や応援者を獲得している
(大分県佐伯市間越地区)

漁業者数の減少や漁村の限界集落化は止められない動きかもしれません。しかしながら、あるいはだからこそ、漁獲金額の規模だけで地域漁業や漁村の価値を測るのではなく、そこで暮らしていく人たちがそこにいることによって果たしている役割や、そこで生きていきたいという人たちの価値観が重要になると考えています。

このコーナーでは、2018年と2019年の調査対象地区の状況を順に紹介していきます。

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