漁村の活動応援サイト
vol.6
2022.4.18

漁業を中心としてどうやって生活をたてるか
(鹿児島県薩摩川内市下甑町長浜集落)

地区の概要

鹿児島県薩摩川内市下甑町長浜集落は、鹿児島県本土から西方約38kmのところにある甑島列島の下甑島の南部にある。2019年9月時点で、下甑町には1663人(1073世帯)が住み、そのうち長浜集落には670人(450世帯)が住んでいる。長浜集落には自衛隊や老人ホームがあるため、人口が割と多いほうなのだという。

地区漁業の概要

長浜集落ではタカエビ(和名:ヒゲナガエビ)を対象とする小型底曳網漁業4ケ統が主に操業されていて、タカエビを使った特産品開発の取組が平成27年度の農林水産祭で内閣総理大臣賞を受賞するなどして注目されてきた地区だ。現在、漁業者は総勢60人いる。

公益財団法人日本農林漁業振興会HP農林水産祭天皇杯当三賞受賞者名簿(平成25~27年)
http://www.affskk.jp/tennohai04.html

ここの集落で中心的に地域づくりの活動に関わるSさんの漁業経歴をみることで、地区漁業の様子を垣間見てみる。1954年生まれのSさんは30歳の時に小さな船を買い、イカ、アジ、サバなど色々な魚を獲っていた。その他、31歳ぐらいまでは父と一緒に小型定置にも乗ったり、潜水漁でイシダイ、ハタ、メジナなどを獲っていた。その後、7トンの漁船を買い、キビナゴの刺し網漁を7年間行っていた。37歳ごろ、9.9トンの船を買い、エビの底曳網漁業中心に切り替えた。そして2012年ごろには居住ができる船に買い替え、乗り子と2人でエビ漁だけでなく、12月末~4月上旬は沖縄にソデイカ漁に出かけ、ずっと沖縄にいる。

タカエビ漁の水揚げの様子

エビを水揚げした後は妻たちも選別場にやってきてひたすらエビの選別を行う。基本的に自分の夫が水揚げしたエビの選別を妻が行う。作業の手は止めないまま、隣で同様の作業をしている女性と談笑したり、ぼやきあったり、選別場は女性同士のコミュニケーションの場にもなっている。ふと見ると若い男性も選別していた。若い漁師かと思って声をかけてみると、普段は自衛隊の仕事をしているが、休みの日には地元の人に交じって選別作業を手伝っているのだという。

バショウカジキの出漁準備

加工活動の注目のあと

集落活動では、エビの選別時に出るシバエビ(和名:ヒメアマエビ)や極小タカエビなど、値がつかないために廃棄しているエビたちを使って、エビふりかけやエビつけあげを加工し販売するという取り組みが評価されていた。

では、その後、どうなったか。話を聞いてみると、現在は、加工ではなく、1人1人の収入が良くなるような取り組み、つまり漁業を中心としてどうやって生活をたてるかという視点へと方向転換しているという。例えば、対馬にアカムツ漁を習いに行き、アカムツ漁を導入するなどの取組みだ。そうやって新しい漁業を導入することで、若手の漁業者がとても喜び、漁業に張り合いが出ているという。漁業でどうやって生活をたてるのか。集落ではとても重要な課題だ。

「15の春」の子供たちへ

甑島には高校がない。だから、みんな中学校を卒業する15歳の春には島を出ていくことになる。15の春は、子供にとっても、親にとっても、将来への期待と別れる寂しさが入り混じる切ない季節だ。ここの地区の人たちは「15の春」と呼んでいる。「15の春」で島を出ていった子供たちが、将来、島に戻ってきたいと思うには、島で生活ができなければならない。漁業者たちは、そんな時、漁業でも生活できるよ、ということを子供たちに証明しておきたいのだという。長浜集落の漁業者たちが、次はどのような展開を見せてくれるのか。楽しみだ。

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