漁村の活動応援サイト
vol.6
2022.6.20

「漁村の幸福感と持続性に関する研究」の目的と
幸福感研究に対する世界の関心

(うみ・ひと・くらしネットワーク)

うみ・ひと・くらしネットワークでは、(一財)東京水産振興会からの受託事業として2021年度から「漁村の幸福感と持続性に関する研究」に取り組んでいます。これから隔月でこの調査研究事業について、連載してまいります。

「幸福度指標」や「ウェルビーイング」1) などという言葉をあなたもどこかで目にしたり、耳にしたりしたことがあるかと思います。近年、国際連合やOECDといった国際機関において、幸福度指標の作成を通じて幸福の全体図を描き出そうとする試みが進められ、日本においても2010年から「幸福度に関する研究会」が内閣府に設置されました。

1) 日本語では、ウェルビーイング(well‐being)を「幸福な状態」「健康な状態」と訳すことが多い。世界保健機関(WHO)の憲章では、「身体的・精神的・社会的にすべてが満たされた状態」を意味する概念とされている。近年はウェルビーイングをキーワードにして社員の労働環境を整備する企業が増え、さらに細かく言葉を定義して用いている傾向がある。

今後、GDPといった数量的な側面だけではなく、満足度という質的・主観的尺度も活用することにより日本の経済社会の構造をより多面的に「見える化」し、政策運営に活かしていく予定となっています。このような政策と相前後して、2000年代以降、日本においても多様な分野で幸福感研究が各分野で進められています。

農林水産業では、農村を対象とした調査研究が先行し、漁村を対象としたものは限定的です。近年、漁業の規模が縮小し限界集落化の恐れがある漁村コミュニティも少なくないものの、漁村でこそ実現できる幸福が様々あるように思われます。それが、漁村に暮らし続ける人々や漁村に惹きつけられる人々がいる理由にもなっていると考えられます。

この調査研究では、地域漁業と漁村コミュニティの変化と現状をとらえるとともに、漁村を対象とした幸福感研究として、アンケート調査と聞き取り調査によって漁村コミュニティの特徴や漁業従事の状況、経済状況、地域活動への関与等と幸福感の関係を把握し、漁業と強い結びつきを有する漁村コミュニティをどのように持続させていくことができるのかについて考えていきたいと思います。アンケート調査の分析だけでなく、各地で実施する聞き取り調査で聞けた人々の声もみなさんにお伝えしてまいります。

これまでの幸福感研究では、概ね次のことが共通的に示されています。第一に幸福度にとって明らかに重要なのは健康と人間関係であり、第二に男性よりも女性の幸福度が高く、第三に年齢階層別では、幸福度は若年層と老年層で高く中年層で落ち込むU字型曲線を描く特徴が示されています。第四に所得については、ある程度 2) で幸福度は最大となり、それ以上高額になっても幸福度は下降します。「自己決定」という要素も重要であるという指摘もあります 3)

2) 例えば西村らの研究結果では、世帯年収1,100万円台で幸福度は最大となり、それ以上高額になっても幸福度は下降する結果が示された(西村和雄(経済産業研究所)・八木匡(同志社大学)「幸福感と自己決定—日本における実証研究」RIETI Discussion Paper Series 18-J-026、2018年9月)。
3) 上記2の西村らの文献による。

また、「幸せの4つの因子」という説もあります 4)。①「やってみよう」因子、②「ありがとう」因子、③「なんとかなる」因子、④「ありのままに」因子です。例えば、①「やってみよう」因子については、夢や目標に向かって主体的に努力を続けられる人は、何も行動を起こさない人よりも幸せになれるということです。つまり、自分が好きなことやワクワクすることをやっていくことが重要なようです。

4) 前野隆司氏らが提唱する。例えば前野隆司・前野マドカ「ウェルビーイング」(日経文庫),2022年3月,日本経済新聞出版

さあ、あなたの幸福感はどのくらいですか。その幸福感は、主に何によってもたらされていますか。一緒に考えてみませんか。

目次へ