漁村の活動応援サイト
vol.10
2023.8.21

漁村の幸福感調査
—事例調査報告1 鹿児島県錦江町を訪ねて—

2022年度の幸福感調査の一環として、現地においてインタビュー調査を実施した。インタビュー結果は別途報告にまとめるとして、ここではうみひとネットのメンバーが見た漁村の人々の想いや暮らしの一端を、訪問記として紹介したい。

鹿児島県錦江町での幸福感調査結果の概要

錦江町では、町やその周辺地域の漁業従事者・水産業従事者・漁協職員・公務員・NPO職員など、及び他地域に居住しながら錦江町と深くかかわっている人など、多様な人々へのヒアリング調査を行った。幸福度の平均は8.2と、他の調査地と比較し高い点数だった。幸福感に関わる要素については、「健康」「家族との関係」「地域の人間関係」の項目が比較的順位が高い傾向にあった。

錦江町訪問記

「さかしたキッチン」からうまれるSDGs な加工商品

2022年12月、うみひとネットのメンバーは鹿児島県錦江町の坂下奈津子さんを訪問した。坂下さんは錦江町の漁家に嫁ぎ、有限会社坂下水産(親族と経営する水産会社)が経営する「ふる里館」(物産館)の総括として、坂下水産の養殖魚の普及や地元で養殖されているヒラマサやカンパチを中心とする水産物の活用拡大のための加工品の開発と販売などを手掛けている。また、海洋ゴミや食品ロスなど、漁業・水産業や暮らしを取り巻く環境問題に高い関心を持ち、地域の人々と共にSDGsに関する勉強会や実践活動を行っている。例えば、2015年には「ふる里館」の女性従業員たちと結成した「さかしたキッチン」の代表となり、食品ロスの解消を目的として、当日売り切れなかった刺身を活用した加工品開発・販売を開始している。実はその数年前から、「ふる里館」の売上に減少傾向がみられるようになった。その背景には地域住民の高齢化や魚食離れといった社会的な課題がある。そこで坂下さんたちは、若い世代の人たちが手軽に魚料理を楽しめるような商品づくりを考えるようになった。鮮魚で売り切れなかったカンパチやヒラマサの刺身、地元の漁船漁業で廃棄してきた低利用の地魚などを使った商品開発を検討していく中で、おさかなハンバーグなどが作れるような魚のミンチ「ぎょみっくすミンチ」を作り出すなど、様々な商品を開発している。2019年には錦江町が主催する「まち・ひと・『MIRAI』創生協議会」の理事に就任し、協議会が町から受託し運営するふるさと納税の返礼品として自家養殖魚やさかしたキッチンの加工品を取り扱っている。

今回は、漁村住民の幸福感についてヒアリング調査を実施するということで、坂下さんには様々な人を紹介していただき、たくさんの人と出会うことができた。

かごしまの「うんまか深海魚」を食す

深海魚寿司
深海魚揚げ物

地元の珍しい魚を食べさせるお店に行きましょう、と坂下さんが連れて行ってくださったのは、錦江町のお隣、鹿屋市の榮樂寿司さん。地元食材にこだわった料理を提供する二代目大将の米川さんは、「かごしま深海魚研究会」のメンバーでもある。この研究会は、鹿児島大学の教授が代表となって、生産者、自治体、水産仲卸業者、飲食店等と連携して活動している。底曳網で漁獲される深海魚などのいわゆる未利用資源の組成を調べたり、それらを食材として活用することで、観光資源としての価値づけをしたりといった活動を行っているのだという。県内で獲れる深海魚は「うんまか深海魚」と称され、ブランド化されている。米川さんは鹿児島の深海魚の漁場や写真と名前が載っているシートを使って、たった今私たちが食べた深海魚について、楽しくレクチャーしてくださった。深海魚の種類の多さと、その繊細な美味しさに、魚食の奥深さと可能性を感じることができた。

深海魚シート

定置網乗船体験

訪問二日目の早朝、私たちはまだ日が昇る前の薄暗い港にいた。定置網の乗船体験に出発する。乗せてくださったのは肝属(きもつき)郡の昌徳丸だ。坂下さんと坂下水産でバイトをしている大学生(彼女はバイクで日本一周中とのこと。数日前にたまたま錦江町へきて、ふる里館でしばらくアルバイトをすることになったのだという)、株式会社CAMPFIREのIさん(彼は、錦江町、土佐清水市、京都市など複数の地域で数カ月ずつ居住しながら仕事をしている)、そしてうみひとの面々がワクワクしつつも少し緊張した面持ちで定置網の船に乗り込んだ。乗組員の中には、インドネシアからの研修生もいる。10分足らずで定置網に到着すると、乗組員たちはそれぞれのポジションにつき、手慣れた様子で網を揚げ始める。バシャバシャと様々な種類の魚たちが揚がってくる。獲れたての魚を積んで、港に入る。空はいつの間にかすっかり明るくなっていた。

定置網の網おこし

港に着くと、すぐに魚を木箱に分ける作業に取り掛かる。そこらじゅうをフォークリフトが走り回り、結構な賑わいだ。作業が終わると、乗組員たちは帰宅する。外国人船員を含む若手乗組員は、港近くの一軒家で共同生活をしている。

定置網漁業の魚の選別作業

地元から様々な発信をしていく

坂下さんは、地元の生産者や、飲食店、様々な分野の人たちと積極的に関わりながら、今後もSDGsのみならず、様々なテーマについて勉強を継続していく計画だという。それだけでなく、まちづくりに関わる活動にも積極的に関わっていて、令和元年に地域おこし協力隊と町民で立ち上げた「株式会社 燈」の取締役にも就任している。ここでは学生や町民、地域おこし協力隊など、様々な人たちとの交流を通して、町外からのゲストと町民が交流できるゲストハウスとシェアハウスの運営を行っている。自ら船舶免許と船長業務の資格を取得し、養殖の給餌体験を企画、命を育みそれをいただくというストーリー性のある体験事業を実施している。また、最近では「大隅のミリヨーギョ!実行委員会」に参加、大隅の未利用魚の活用について知恵を絞っている。

足元をしっかり固めながら、世界に発信できる活動に取り組んでいる坂下さんはじめ、周囲の人々の熱い想いと、挑戦する強い意志に圧倒される訪問だった。

錦江町から望む開聞岳
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