Anchor. 漁師の貸切アジトとは
宿の名前であるAnchor.には、船の錨(いかり)や支え、拠り所という意味があります。
宿泊者がAnchor.を基点として、漁師さんとの交流や漁村で過ごした時間が、日常の“支え”となり仲間との“拠り所”になりますように。
そんな思いを込めて名付けられています。
Anchor.は、もともと漁師さんが営むホテルの従業員寮だった建物をリノベーションしました。部屋は7室あり、最大収容人数は29名。全室で鳥羽市浦村町の海を望むことができます。利用は5名以上からの、一棟貸切の団体向け宿泊施設です。
また、Anchor. の一番の特徴は
・ 牡蠣イカダクルージング
・ ワカメ狩りクルージング
・ アカモク狩りクルージング
・ アサリ養殖体験ツアー
などの漁師さんと連携した漁村アクティビティを体験できる点にあります。
オーナーの行野慎平さんは、石川県金沢市出身。20代で世界一周の旅を通して、ローカル地域での自然体験に感動し、また日本の良さを再認識されます。帰国後には、静岡県のキャンプ場を運営する株式会社VILLAGE INCに入社し、キャンプ場の立ち上げなどを経験。そんな中で生産者、特に漁師さんとの出会いをきっかけにして、2018年12月に三重県鳥羽市浦村町へ移住されます。そして漁師さんの元で働きながら、2019年3月に一棟貸切の団体向け宿泊施設「Anchor. 漁師の貸切アジト」をオープンしました。
なぜ、行野さんは移住をして鳥羽市浦村町で「Anchor. 漁師の貸切アジト」をオープンされたのでしょうか?また、豊富な漁村アクティビティでは漁師さんとの連携は不可欠で、どのようにされているのでしょうか?
そんな疑問に、行野さんと地元の漁師さんたちにお答えいただきました。
観光ではない、Anchor. の感幸サービスとは
※.3人はお互いに名前で呼び合っていますので、当記事では以下よりお名前での表記に統一させていただきます。
1次産業は感動体験の場。漁師との出会いと移住に至るまで。
慎平さんが三重県の漁師さんたちに出会うきっかけとなったのは、2017年5月に開催されたイベントでの全国の生産者が集う場でした。
2017年当時、慎平さんは静岡県で全国各地の宿泊施設の立ち上げをサポートする「株式会社VILLAGE INC」に勤務し、仕事で三重県志摩市の施設立ち上げに携わりました。
慎平さんは全国の生産者たちとの交流を通じて、どんどん1次産業の魅力、特に水産業の魅力に惹かれていったといいます。実際に漁師さんのもとで、牡蠣養殖やワカメ養殖等の現場を体験し、行野さんは目を輝かせていました。
また、その一方で漁師さんたちが働く1産業の現場には、後継者や人手不足などの課題も多いという現状を知ります。
慎平 「1次産業は普通の人にとって感動体験の場。それを知るきっかけになるヴィレッジを作りたい。当時、そう考えました。」
三重県での仕事を終えて、静岡県に戻ることになります。その時、場づくりを専門とする自分ができることがあるかもしれないという思いが慎平さんに募っていました。悩んだ末、慎平さんは三重県に移住することを決意します。
漁村アクティビティの土台を作っていた漁師たち
慎平さんが「漁村での場づくり」という考えから、具体的に「Anchor. 漁師の貸切アジト 」の構想が進みだしたのきっかけは、漁師の大輔さんたちが取り組んでいた鳥羽渚泊(とばなぎさはく)への参加でした。
大輔 「渚泊は簡単にいうと、農泊のような原体験や収穫体験を漁村でもできるんじゃないかという取り組みやな。」
産学官の連携によって鳥羽渚泊推進協議会が立ち上がり、そこで副代表を大輔さんは務めていました。鳥羽渚泊推進協議会では、多くのアイデアが生まれ、モニターツアーなども実施し成果を出します。しかし、課題もありました。
大輔 「渚泊では、色々やりたいねってアイデアは出てくるんやけども。じゃあ誰がいつどこでやるの?ってなかなか決まらん。」
事業期間も終わりに差し掛かっていた、そんなタイミングに三重県に移住してきた場づくりのプロである慎平さんが鳥羽渚泊に参画します。すると、数多くのアイデアが現実味を帯びてきました。
慎平 「漁村でのアクティビティは別に僕が作ったわけではなくて、漁師さんや産学官の連携があったから実現できていることなんです。」
漁村アクティビティの土台を作っていた漁師たちの町に、1次産業で感動体験場を作りたい慎平さんが移住されたことによって、「Anchor. 漁師の貸切アジト」のオープンへと繋がっていきます。
観光ではなく、感幸。
漁師の当たり前が特別な体験になる
Anchor. では
「“光を観る”『観光』を超える、“幸せを感じる”『感幸』を。」
をコンセプトにされています。
例えば、お客様自身が牡蠣や海藻などの食材を収穫。さらに収穫した食材を調理して食べます。また、仲間たちや漁師さんとの交流を通じて、幸せを感じてもらう。そんな時間を過ごしてもらえると慎平さんたちは話します。
慎平 「善信さんは今日のヒーローでしたよ。」
筏でのクロダイ釣り体験中に、漁師の善信さんは船からおもむろに長いモリを取り出しました。その数分後に、筏の上で歓声があがります。
大輔 「喜んでくれたね。普段やったらボラを突いてもヒューって言ってくれへんで。」
と「そりゃ、そうやわな。」と3人は笑い合います。漁師がとった自然な行動が、ツアー参加者にとっての特別な感動体験となった瞬間でした。「筏って楽しい」、そんな言葉が参加者から聞こえてきました。
善信 「観光って思ってくると漁村アクティビティは合わへんかもしれんな。ただ参加するんじゃなくて、自分がやりたいかやりたくないか。ちょっとでも気持ちがあったら、こっちの感幸の方が断然面白いわな。」
楽しむ覚悟や地元の漁師さんと交流したいという気持ちがあれば、絶対に幸せを感じてもらえると慎平さんは胸を張ります。
Anchor. の漁村アクティビティが豊富な理由
慎平 「漁村アクティビティは、やりたくても普通の漁村ではできないと思います。」
Anchor. で漁村アクティビティができる理由。そのポイントは、お客様ではなく漁師に合わせているという点です。
大輔 「結局、大事なのは型なんさ。」
牡蠣イカダクルージングなどの漁村アクティビティは、漁師の都合に合わせられるように型を作っています。そうすることで、大輔さんや善伸さん以外の漁師さんが対応ができる柔軟性を持たせています。また、慎平さんが担っているツアーコーディネートやガイドに関しても同様です。
慎平 「実はもっといっぱいやりたいことがあって、漁師さんと相談しています。いつものやろうやろうというノリで、これからツアーになっていくかもしれないです。」
3人が思い描くAnchor. のこれからの未来像
取材の最後に、Anchor. のこれからの未来を3人はどう思い描かれているのかをお聞きしました。
慎平 「僕はもう漁師さんがアクティビティっていうのがめっちゃ面白いなって思っていて、冬は牡蠣漁・夏は漁村アクティビティでお客さんを迎えている。それって、すごくワクワクするなって思ってます。」
大輔 「遠い未来のこともそうやけど、いろんなところで歯車が回ってきている。その中でAnchor. が大きい歯車となって、俺らや他の歯車をガチッと一緒に動かしてくれていってくれたらええね。」
善信 「まだ俺はそこまで考えられてない。(Anchor. が)この短期間でここまでしたのがびっくりやもん。そんな感じやでさ、まだ俺の方がいろいろ用意が追いついてない。ついていかなあかんなぁと思っとるけども。おもしろいでな。」
3人が思い描くAnchor. の未来。これから漁村に訪れた多くの人が、漁師さんの当たり前に目を輝かせて幸せを感じる光景が溢れます。そんな漁村の姿は、そう遠くない未来に訪れそうです。
漁師の隠れアジト「Anchor.」
- 名前
- Anchor. 漁師の貸切アジト
- 住所
- 三重県鳥羽市浦村町1558-5
- info@anchorajito.com
- WEB
- https://anchorajito.com
- 設備
- 最大収容人数 29名(部屋数 7室)
駐車場 有り(約5台前後)
Wi-Fi完備
施設内禁煙