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写真左から神山百合子さん、濱畑千代子さん、西村ハギ子さん
vol.8
2020.9.28

規格外牡蠣の活用で、農林水産大臣賞を受賞!まんま・まりーの 濱畑 千代子さん神山 百合子さん西村 ハギ子さん

牡蠣の名産地で知られる宮城県石巻市の中でも、長面浦(ながつらうら)産の牡蠣は特に美味しいと評判。しかしこの地域は、東日本大震災で甚大な被害を受け、震災後は人が住めない場所となってしまいました。

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味が濃くて美味しいと評判の長面浦産の牡蠣

住民は仮設住宅に入るため、他の地域に散り散りとなり、長面地区は名実ともに消滅の危機に。そこで女性たちは、故郷に少しでも人を呼び戻そうとさまざまな活動を始めました。中でも、牡蠣養殖家の妻3人組が結成した「まんま・まりーの」は、自分たちで開発した牡蠣の加工品が2020年2月に、農林水産大臣賞を受賞!牡蠣養殖を続ける夫たちも大喜びする快挙を遂げました。

規格外も無駄にせず、牡蠣養殖業の未来を作りたい

震災前から活動していた地域の生活改善グループ「はまなす会」。その会長だった濱畑千代子さんを中心に、2015年には被災した地区の女性7名が一丸となって、漁協の番屋を利用した週末限定のカフェをオープンしました。しかし、人が住めなくなった地域での集客は予想以上に困難。予約制で団体客を呼び込むなど手法を変えつつも、だんだんとメンバーたちは個別に活動することが増えてきました。

その中で、同じ牡蠣養殖業を営む3人が集まったのは自然なこと。以前から大変だったけれど、被災後さらに厳しくなった牡蠣養殖について、次世代にバトンを渡せるよう、なにかで収益を上げなければ、と話し合ったのです。

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漁協の作業場。牡蠣の収獲期には、一家で牡蠣の殻をむく作業に追われる

そこで話題にあがったのが、販売できない規格外の牡蠣。以前は喜ばれたのでご近所にも配り甲斐があったけれど、震災後の仮設住宅暮らしでは、遠慮が先立ち廃棄することが多くなってしまったとか。

「かたや、世間では食品ロスが問題になっている。これをなんとか商品化できないか、と自分たちで加工品を開発してみることにしました」(濱畑さん)

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牡蠣の殻をむく作業

宮城県の支援機関に相談し、38万円の助成金を得られたことをきっかけに、2016年から商品開発をスタート。最初は、牡蠣をペースト状にし、野菜などにつけるディップを牛乳で薄めてスープとしても楽しめる商品を考えていました。

ところが、長面浦産の牡蠣は一年モノのため、成長の度合いによってどんどん味が変わっていきます。保存方法として考えていた常温パウチも、袋を開けてみると牡蠣の身の味が抜けてしまっておいしくなく、試作を重ねても味が定まらず、迷走を続けました。

「私はもうあきらめの境地。家では年寄りの介護もあったし、一時はあまり参加しなくなっていました」と西村ハギ子さん。また、神山百合子さんも、夫の実家が長面浦で牡蠣養殖をしていたが、当時は会社員だった夫の仕事の都合で仙台在住、なかなか開発の現場に立ち会うことができませんでした。それでも、リーダーの濱畑さんはあきらめず、熱心に協力してくれていた県の職員と2人で、試作に試作を重ねたと話します。

「牡蠣は茹でてからペースト状にするとカニ味噌のような風味になることを発見しました。混ぜるのは牛乳と生クリームを基本に、じゃがいもでとろみをつけたり、味噌を入れてみたり。いろいろやってみましたが、どうしても味が一定に保てず、自分たちでやるには限界かな、と暗礁に乗り上げつつありました」(濱畑さん)

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たったひとりで黙々と実験を繰り返すことも多かったという濱畑さん

遅々として動かなかった商品開発に転機が訪れたのは、スタートから2年が経った2018年。夫の定年退職を機に、神山さんが石巻に戻ってきて本格的に参加できるようになり、とにかく来年、2019年3月には商品を発表しようと、先にゴールを設定したのです。この時すでに、県の支援機関を通じて商品につけるラベルも完成。あとは中身、味を決めるだけでした。

そんな時、アドバイスをもらえることになった地元ホテルの常務から、水産会社を紹介されました。この水産会社との出会いが、商品化を一気に進めてくれたのです。

一番の悩みは作るたびに味が変わってしまうことでしたが、水産会社の工場では一回で大量に作れるうえ、業務用冷凍庫で急速冷凍できるので味が均一に。また味も、最終的には、濱畑さんらが作ったものに、オリーブオイルや魚醤、アンチョビなどが追加され、グレードアップ。ついに『石巻長面浦産 牡蠣のソースバーニャカウダ風』が完成しました。

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「他のところの牡蠣でも作ってみたけど、しょっぱくなった。長面浦の牡蠣はやっぱり甘みと旨味があっておいしい、と水産会社さんに言ってもらって、自信が持てました」(濱畑さん)

値決めに失敗、ラベルも変えてリニューアル

自分たちで決めたゴールになんとか間に合い、2000個の商品が完成。2019年3月15日に、支援機関の音頭でホテルにメディアを集めて発表会が開催されました。まだ決まっていなかった商品の価格は後日発表ということにし、当日はとにかく試食してもらうことが目的、と事前に打ち合わせました。

「ところが、会場で記者さんに聞かれた時、『自分で買うなら1000円ぐらいかな』とつい言ってしまった。それが商品価格として伝わってしまって大失敗!あとで計算すると、1000円で販売したのではまったく利益が出ないことがわかったんです(笑)」と神山さん。

牡蠣は自分たちの家から規格外のものを持ってくるからいいものの、水産会社への製造委託費や瓶代、お店に置いてもらう際の委託販売料などで1000円程度はいってしまう。これに自分たちの交通費などが加われば、もう赤字でした。

「なんのためにやっているんだか、わからない!利益を上げなきゃ意味ないよ、と私は何もしないけど怒り役で、働いてくれる2人のお尻をたたきました(笑)」(西村さん)

また、実際に産直売り場などの店頭に立ってみると、お客さんに試食を勧めれば買ってもらえるが、棚に置いただけでは他社商品に比べてラベルが地味、目立たないことにも気がつきました。そこで、最初に作った2000個を売り切ったら、次回はラベルを変えて価格を1200円まで引き上げようと相談。発表は、2019年11月24日と2回目のゴールを定めました。

「ボジョレーヌーボー解禁に合わせ、この日にしたんです。牡蠣の味も1〜2月にとれたものと3〜4月にとれたものでは違って、後半になるほど身が充実してきます。この最高の時期の牡蠣だけを使って今回は500本を製造。これからも牡蠣の収獲期にあわせ、その時できた量だけを作り、完売したら終了というボジョレーヌーボーみたいな商品になっていきます」(濱畑さん)

瓶の形を変更し、ラベルも上質な印象に。濃いピンクの花模様をあしらって、数ある他社商品と並んでも、目を引くデザインになりました。こうして『牡蠣の贅沢ソース2019』が完成したのです。

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「この1瓶に牡蠣が20粒ぐらい入っています。調味料以外は全部、牡蠣。これは牡蠣養殖家だからこそ、できることだと思いますね」(濱畑さん)

まさかの農林水産大臣賞、受賞!お父さんたちも応援に

その後は3人でイベントなどに出店、商品を販売しながら、長面浦産の牡蠣のおいしさを伝え続けました。すると今度は、石巻市の支援機関から宮城県で開催される水産加工品品評会のお知らせが。そんな大舞台は無縁、と感じながらも、知り合いの会社が多数出品すると聞き、3人は応援に出かけるような軽い気持ちで参加を表明。宮城県でも名の通った数々の会社が自社商品を出品する中、自分たちの『牡蠣の贅沢ソース』が目立つとは、まったく予想もしていませんでした。

しかし結果は、まさかの農林水産大臣賞を受賞!180品目の中から「まんま・まりーの」の『牡蠣の贅沢ソース』が1位に選ばれたのです。

「一次審査で180品目から50品目に絞られ、二次審査まで残っただけで十分!と3人で喜んでいました。すると二次審査の結果発表時、いつまでたっても私たちの名前が呼ばれない。そしてついに呼ばれた時には、まさかの1位! 本当にびっくりして、飛び上がりました(笑)」(西村さん)

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「牡蠣むき作業の忙しいさなか、以前は捨てていた規格外の牡蠣をせっせと集めて、殻をむいて持ち出す。何をゴソゴソやっているんだ、そんなの捨ててしまえ!とお父さんたちに言われたこともありました」と神山さん。妻たちが何をやっているのか、夫が理解するには時間がかかったと話します。

「最初にホテルで発表会をした時に、少しは理解したようでしたが、今回の受賞では、お父さんたちが、自分の作っている長面浦産の牡蠣はやっぱり美味しいんだ!と、自信を取り戻してくれた。それが本当によかったと思います」(神山さん)

1カ月後の表彰式には、夫たちも参加。県知事から表彰されるときには、妻たちに内緒でサプライズの横断幕まで用意していてくれたとか。

地元のメディアにも大きく扱われ、さあこれから!という時に始まったあいにくのコロナ禍。参加予定だったイベントも中止になったが、こんな時こそ前向きに!と次のゴールを9月に定め、もう一品、新しい商品の開発に挑みたいという3人。自分たちの挑戦が、長面浦産の牡蠣の名を全国に知らしめるきっかけになればうれしい、と話してくれました。

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農林水産大臣賞の表彰式。宮城県知事と

取材・文

塩坂佳子(しおさか よしこ)

ライター、編集者。合同会社よあけのてがみ代表。『石巻さかな女子部』主催。
東京で雑誌の仕事をしていたが、東日本大震災後はボランティア活動をしに東北へ通い、2015年秋に宮城県石巻市へ移住。2017年にオリジナルキャラクターブランド『東北☆家族』をはじめ、東北のさまざまなことを企画・編集する合同会社を設立した。魚の街・石巻から日本の魚食文化復活を叫ぶ『石巻さかな女子部』部長としても活動。2019年には石巻の民泊『よあけの猫舎』もスタートした。https://yoakenotegami.com

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