漁村の活動応援サイト
vol.14
2020.12.14

「売れる商品」でカツオの町から羽ばたく高校生
三重県立水産高等学校水産資源科アクアフードコース三重県志摩市志摩町和具

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カツオと片刃包丁

ドンッと、まな板の上に乗ったカツオ。まるまると太っている。

対峙するのは、衛生白衣にゴムエプロンを着た水産高校3年生、野田美咲さん。

馴れた手つきで、胸ビレの後ろから包丁を入れていき、包丁をいったん置いて、頭と胴を引き離す。

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ショーではなるべく血を見せない工夫も

また包丁を持って腹と背を切り込みヒレを取ると、今度は左手一本で尾を持ち上げて、右手の包丁を上から下へ。背骨から片側の身を一気に切り離した。

「これは、漁師さん風のさばき方です」

横にいたはっぴ姿の司会役、同級生の山口菜々さんが説明を加えた。

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解体ショーの司会も生徒たちが務める

「このカツオは航海実習に出た仲間が釣ってきたもので、切り身は新商品の開発のために使います。今回はコロナ感染予防のため試食はしてもらえませんが、味には自信があります。私たちの商品を、ぜひとも味わってほしいです」

同じ頃、水産高校の実習船 “しろちどり” は、太平洋の南の沖からひと月の航海を終えて戻ってくるところだった。解体ショーのカツオは、その船に乗り込んだ海洋・機関科の生徒たちが一本釣りし、静岡県の焼津漁港に水揚げをしたものだった。

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実習船でのカツオの一本釣り(水産高校提供)

高校生が釣り上げたカツオの、高校生による解体ショー

10月25日(日)、三重県鳥羽市の市立海の博物館で、県立水産高校水産資源科アクアフードコースの3年生、愛称 “ボニータ” によるカツオの解体ショーが、上記のように実施された。

同校は、水産業や漁業、船舶・航海関連のリーダー的人材を育てる珍しいカリキュラムを持ち、県外からも入学者を受け入れている。アクアフードコースの生徒たちは近年、オリジナルの水産加工商品を開発し、地元スーパーやイベント会場で実演販売を行ってきた。

ところが、今年は新型コロナウィルス流行のため3月から5月まで休校となり、その後も校外での活動はことごとく中止となってしまった。

そういうわけで、この日は3年生となってから初めての表舞台。解体ショーに合わせて博物館入り口で商品の販売もしていた。

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売り場に立ち接客をする生徒(左)

はっぴ姿でお客さんに商品を薦めていた寺田涼音さんは、「1年生のときよりは、お客様と上手に話せるようになりました」と、ブランクは気にしていなかった。そんな様子を見ていた教諭の一人は、「うれしいですね。前はもじもじしていた子も変わりましたよ」と目を細めていた。

新しい商品を作る調理実習

彼らを成長させた教育は一体、どんなものか? 授業の日に取材をさせてもらった。

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調理室に入る前には入念な消毒

この日は午後の3時限を通して、次の商品の提案レシピを調理して缶詰にする実習だった。

調理室のフロアは広く、20人は並べる業務用の流し台や火力の強い業務用のコンロに、缶詰を蓋閉じする巻締機といった機械も備えられていた。

昼休みの終わりのチャイムが鳴り、生徒たちが衛生白衣を着てゴム手、ゴム長靴を消毒し、調理室に入ってきた。実習を指示する担当の教諭が段取りを説明し、ほか3人の教諭らとともに作業に入った。

この日のレシピは、「オリーブとトマトのイサキ大根」。イサキは志摩市で水揚げされたもの。

生徒たちはそれぞれに片刃包丁を持ってイサキをおろし、野菜の下ごしらえを始める。

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料理は生徒同士で教え合う光景も

一年時に基本を教わったというが、調理の腕前は人それぞれで、「この魚、どっち側から刃を入れるの?」と聞いたり、切れ味に納得がいかず包丁を研ぎ始めたり、カメラに向かっておどけたり・・・・・・。

「いらんことすんなよ!」と、大きな声が飛ぶ。

担当教諭が目配りをしながら、流し台で生徒たちが使い終わった調理器具を洗っていた。

「生徒も洗い物をしますが、なるべくメインの調理作業に時間を使ってほしいんです」

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目配りをする担当教諭

素揚げしたイサキや、味付けして炒めた野菜、煮詰めたトマトソースを缶の中に盛り合わせる。巻締機にかけて蓋をつけて、缶詰が完成。2時間半ほどの実習が終了した。

「売れなきゃ、次は作れないよ」

できあがった缶詰は一部を生徒たちが持ち帰り、協力している伊勢市の食品メーカーに送って評価をもらう。味の調整やパッケージなどの相談はするが、最終的に販売するかどうかを決定するのはメーカーだ。

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缶詰を仕上げる巻締機での作業

担当教諭は、「売れなきゃ、次の商品は作れないよ」と、生徒らに口酸っぱく言っている。

背景には、10年ほど前に志摩市の依頼を受けて開発した商品が認知されず、思うように販売が広がらなかったという経験がある。

めげずにさまざまな商品を考案し、2017年度、“カツオのキーマカレー” が商業高校フードグランプリで審査員特別賞を受賞してついに一躍ヒット。志摩スペイン村のレストランのメニューにも採用されるなど、販路も広がった。翌年度の大会では “カツオのハム” も同じ賞を受賞した。

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販売中の水産高校開発商品

こうした結果に結びついたのは、生徒たちがPRをしてきたからだと考えている。

「何の宣伝もせずに売れなかったら、メーカーさんが投資をしてくれるはずがありません」

2016年度からメーカーに売上データを提供してもらい、生徒たちと分析をしてきた。本年度の発表会の場では、新商品の売上げが順調に上積みされた統計を示し、「『水産高校開発商品』のブランドが定着してきている」と報告した。

スーパーでの実演販売についてもそうだが、まるで商業高校のような意識と活動だ。

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スーパーの鮮魚売り場での実演販売(水産高校提供)

カツオの町にあるキャンパス

生徒たちはどう捉えているのか、聞いてみた。

調理師志望の浜口恭平さんは、「料理はもともと趣味だったけど、売る側の立場でも考えることは、ほかの高校ではできない貴重な経験だなと思います」と答えた。

嶋田時貞さんは、「店頭で話をして、お酒を飲む方には『カツオのハム』を薦めるとか、お客さんの好みや言葉の選び方を考えるようになりました。今日、作った缶詰は家に持って帰って、じいちゃんにアドバイスをもらいます」と述べた。祖父も水産高校出身だという。

コロナ禍で授業も就職活動も例年と大きく変わり、全国の高校3年生が進学や就職で未知の試練と戦っている。彼らも同じ状況にいるはずだが、その声や眼差しに頼もしさを感じた。

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マスクの下は素顔の高校生

取材を終えて帰り際、入り江にかかる橋から、船着き場を持つ水産高校の広いキャンパスを見下ろした。

校舎の後ろの山を越えると、太平洋に面した和具漁港がある。県内屈指の規模の漁港でカツオ漁師もいるが、遠洋で獲るカツオは多くが県外の港に水揚げされていて、産地としてはあまり認知されていない。

ただ、カツオを使う “てこね寿司” という郷土料理は有名で、個人的に研究している生徒がいた。例えば地域と手を組み、地域のブランドとしてカツオを売り込むアイデアはないのだろうか?

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実習船が停泊する水産高校のキャンパス

また今度、彼らに聞いてみよう。

三重県立水産高等学校

http://www.mie-c.ed.jp/hsuisa/

三重水高ボニータ

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水産・海洋高校
缶詰瓶詰全国大会2020

https://canbin.suisan-shinkou.or.jp/
※ 三重県立水産高校がエントリー

取材・文

鼻谷年雄(はなたに としお)

ライター、編集者。ゲストハウスかもめnb.運営。
三重県出身。東京のテレビゲーム雑誌編集部勤務を経てUターン。ローカル雑誌編集者、地方紙記者として伊勢志摩エリアの話題や第62回伊勢神宮式年遷宮などを取材する。フリーランスとなって三重県鳥羽市にゲストハウスかもめnb.をオープン。同市の移住者向け仕事紹介サイト “トバチェアズ” のライター、伊勢志摩国立公園関連の出版物編集などを手掛ける。ときどきシャボン玉おじさんに変身。

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