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vol.18
2021.3.8

一口サイズのサンマにギュッと込められた、美味しいこだわりと思い出。つぐみ工房黒 次美さん

—「ほら、しゃべっとる間にできたやり。

楽しくおしゃべりをしながらも、手元ではピンとしたサンマが次々と捌かれていきます。まるで口と手が別人のようで、目にも止まらぬお手際に脱帽です。

ここは三重県尾鷲市向井にある「つぐみ工房」。尾鷲市は三重県の南部に位置し、漁業や林業が盛んで、人口約17,000人の町です。全国でも雨がよく降る地域として有名です。そして、華麗にサンマを捌いていたのは、今年で77歳になる尾鷲市の名物おばちゃんこと、つぐみ工房 黒次美/くろつぐみさん(以下、黒さん)。

語尾に「やり」がつく独特の尾鷲弁が特徴的な黒さんは、お会いするだけで不思議と元気をいただけてしまう人物です。そんな黒さんが作っているのが、「次ちゃんのサンマ甘露煮」。骨まで柔らかくてあったかご飯に抜群に合うと、子どもからご年配の方まで大好評の商品です。

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こちらが「次ちゃんのサンマ甘露煮」

本記事では黒さんの「サンマ甘露煮づくり」を取材させていただき、商品のことや町のこと、黒さんご自身のことをお尋ねしました。また、急遽ご馳走になった「黒さんのランチ」や僕でも簡単に作れる「次ちゃんのサンマ甘露煮」アレンジレシピも記事後半でご紹介しますので、ぜひ最後まで読んでいってくださいね。

7時間コトコトじっくり炊き込む。完成は3日後、手間ひまがかかってます。

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午前6時。前日の夕方に取り出していた冷凍サンマ約30kgを流水に浸します。介護施設の売店に卸すためのお弁当作りもしつつ、7時30頃に手でサンマを手で返して、頭と尻尾を切り分けはじめます。ちなみに、夏場であれば、冷凍サンマは前日取り出さなくても当日の朝から解凍できます。

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8時に従姉妹さんが合流して、介護施設売店にお弁当を配達。

—「一人でしとる時はえらかった(大変だった)けど、二人でするよってな。世間話や孫の話をしてな、大変やけども面白いね。楽しみでしいよる。

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9時前には、頭と尻尾の切り落としが完了します。少しコーヒーやお茶を飲みながら一服して、地元で摘まれた「番茶」を沸かし始めます。

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9時過ぎになると、サンマの切り分け作業再開。約2時間ほどかかる大変な作業で、11時前にはすべてのサンマが綺麗な一口サイズに切り分けられます。

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サンマの切り分け作業場の片付けをしながら、11時過ぎに大鍋にみりん・三温糖・醤油などを仕込んでいきます。また、中鍋に湯も沸かします。

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尾鷲特産「とらの尾」。
その名の通り、虎の尾っぽのような形の青とおがらし。
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11時30分頃、中鍋で沸かした湯にサンマを湯通しして余分な脂を落とします。そして、サンマと尾鷲特産「虎の尾」と地元で採れた生姜と沸かした番茶を大鍋に投入して炊き込み開始です。

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12時頃になり、大鍋がグツグツと煮立ってきたところで、火加減をとろ火にして蓋をします。ここから、様子をみながらちょっとおたまで抑えたりし、約7時間後の19時に火を止めて1日目の工程が終了。

2日目には冷ましたサンマの甘露煮を真空パックに詰めて煮沸処理し、3日目にシールを貼ってやっと「次ちゃんのサンマ甘露煮」が完成します。

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お箸で簡単にほぐれながらも、形は崩れないのはサンマならでは。

美味しい「次ちゃんのサンマ甘露煮」には、黒さんたちの手間ひまかけたこだわりと温もりがぎっしり。実際に作っている現場を知ると、「それは美味しいわけだ」と納得してしまいます。

「サンマの甘露煮」商品化のきっかけは、尾鷲のお母さんの味が楽しめるランチバイキングでした。

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つぐみ工房裏の尾鷲市向井地区ののどかな風景。

尾鷲市で2006年にオープンした「夢古道おわせ」は、「海洋深層水のお風呂」や「お母さんのランチバイキング」で人気のスポットです。「お母さんのランチバイキング」は、複数の地元のお母さんグループが日替わりで作った郷土料理をランチバイキング形式で食べられるサービス。黒さんは友人らと結成した「向井フレンズ」で、2007年から約7年間活動しました。

—「私は63歳(2007年)の時に退職してな、そうしたら声をかけてもらって、友達らとバイキングすることになったんさ。その時にここの納屋を改造してな。

現在、黒さんがサンマ甘露煮をつくる「つぐみ工房」の場所は、「向井フレンズ」の調理場として始まりました。黒さんをはじめ、メンバーはみんな料理好きで、「煮炊き担当」や「サラダ担当」と持ち場を分担しながら運営。そして、約7年前(2014年)にメンバーも高齢になってきたタイミングで、「向井フレンズ」は「お母さんのランチバイキング」を引退しました。

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—「ランチバイキングはチームワークでしやなあかんから、誰かが欠けたらもうできひんのさ。あの頃は忙しかったけど、楽しみでもあったんやけどな。

そんな、「向井フレンズ」が作る郷土料理の中でも「サンマの甘露煮」はとても好評でした。家でも食べたいというお客様の声もあり、黒さんは商品化を決意。百貨店の方や料理の先生にアドバイスを受けながら、石を積んだように並べたり、一口サイズに切り分けるなど試行錯誤しながら、改良を重ねていきます。そして、真空パックの機械も導入し、現在の「次ちゃんのサンマ甘露煮」が出来上がりました。

尾鷲とサンマ。黒さんたちの思い出の味。

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便石山からの尾鷲市街の様子。

尾鷲市をはじめ熊野市など三重県でも南側、東紀州と呼ばれる地域の名物といえば、北から南下してくる過程で身が痩せて脂の落ちたサンマ。「サンマの丸干し」や「サンマ寿司」を筆頭に、住民はサンマを使った料理にとても親しみを持っています。

サンマ船も多く、昔から刺し網で大量に獲れてきた尾鷲のサンマ。「甘露煮」はご家庭で食べられてきたサンマ料理のひとつで、黒さんは子どもの頃にもよく食べていました。

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しかし、近年ではサンマの不漁が続いています。「次ちゃんのサンマ甘露煮」のサンマは、元々は尾鷲産のもので作り始めましたが、現在は漁連を通して仕入れた東北産のものを使用。炊き込む前の切り分けたサンマの湯通しは、尾鷲産のサンマにはなかった工程です。

—「私らが食べとったのはもっとパサッとしとったな。脂のある方が好きっていう人もおるで、いろいろやり。

尾鷲市で魚屋を営むご両親の元で、黒さんは8人兄弟の真ん中で育ちました。子どもの頃、例えば夏場はアジを細かく開く手伝いしてからでないと遊びに行けなかったと、当時を振り返ります。また、食べるものも豊富ではなかったとも。

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—「量がなかったもんでな。でもな、朝からでも山芋やったら味噌汁で食べさせてもらってな、冬になったらからし菜を巻いためはり寿司。めはり寿司をな、7人も8人もおる子に、親が握って一個ずつ食べさせてくれたんさ。タチウオやったら朝から刺身やり。

食べることに不自由はしなかったと話す黒さん。黒さんの中には子供の頃から、ご両親や兄弟との美味しい記憶が今も残り続けていました。

料理を作るのも、誰かに食べてもらうことも好き。「黒さんのランチ」で元気もりもり。

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—「あんた昼食べるかな?

そんなお言葉に甘えて、特別に「黒さんのランチ」をご馳走になりました。隣のお部屋で、現在進行系でコトコト炊かれている「サンマの甘露煮」づくり同様に、黒さんのお手際はお見事。みるみる美味しそうな料理が出来上がっていきます。

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    サンマのみりん干しに肉厚なウツボの塩焼き。
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    黒さんお手製のたくあん。
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    黒さんの肉じゃが

肉じゃがには、鰹節と昆布をミキサーかけた粉をふりかけます。黒さんのお手製美味しい尾鷲健康料理が目白押しです。しかも、どれも絶品。

—「美味しいやり。あれやったら美味しいやろうなっていつも考えとるんさ。何もいらんのさ。私は楽しみなん。今年もたくあん漬けたってさ、 喜んでもらったらそれでええわって思うもんでさ。

料理も作るのも、自分で食べるのも、振る舞うもの大好きな黒さん。サンマの甘露煮の美味しさだけでなく、77歳になってもパワフルで元気な理由を黒さんに学ばせていただきました。

黒さんを思い出す、自宅でいただく「次ちゃんサンマの甘露煮」レシピ。

骨まで柔らかくてそのままでも絶品の「サンマの甘露煮」。黒さんにいただいたサンマの甘露煮レシピを元に、自宅でアレンジ料理に挑戦してみました。

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    サンマの甘露煮おにぎらず。
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    サンマの甘露煮入り玉子焼き。
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    サンマの甘露煮サンドウィッチ。
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    サンマの甘露煮混ぜごはん。

どれも簡単に調理できて美味しくて、特に熱々のご飯との相性は抜群です。

僕たちの生活を支え、豊かにしてくれる美味しい商品には黒さんたちのような作り手たちがいます。サンマの甘露煮を一口いただくたびに、思い出すのは黒さんの元気なお姿と声でした。

—「美味しいやりー

はい、黒さん。とっても美味しいです。ごちそうさまでした。また尾鷲に遊びに行かせてください。

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つぐみ工房


住所
〒519-3625 三重県尾鷲市向井353
TEL
0597-22-4813
WEB
https://owasekankou.com/buy/tsugumikobo/
(尾鷲市観光物産協会)

取材・文

濱地雄一朗 | Yuichiro.Hamaji

三重県で活動する地域ライター。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごしています。専門は物産と観光、アクティビティ体験など。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。

三重県お土産観光ナビ
https://mie-hamaji.com

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