漁村の活動応援サイト
vol.20
2021.3.31

水産の街、石巻から日本の魚食文化を復活させたい!宮城県石巻市石巻さかな女子部 

2015年秋に発足して以来、魚のおろし方をマスターし、魚食文化をおおいに楽しみたいという女性たちが集まり、勉強会にイベント出店、レシピ開発など、さまざまな活動を続けてきた『石巻さかな女子部』。メンバーは、わかめやホヤ漁師の妻から元パティシエ、看護師、会社員、主婦などバラエティに富んだ顔ぶれで、入れ替わりを繰り返しつつも、常時20〜30名が名を連ねています。今回は、そんな『石巻さかな女子部』の部長である私、塩坂佳子(しおさか・よしこ)が、我が部の活動についてご紹介したいと思います。

石巻を魚食文化で盛り上げたい

宮城県石巻市は、世界三大漁場と言われる「金華山沖」を有し、200種類以上の魚が水揚げされる水産の街。沿岸部にあるその名も「魚町」というエリアには、震災後に建て直された近代的な魚市場をはじめ、数多くの水産加工場が軒を連ね、飲食店には新鮮な魚料理を求めて観光客が訪れます。

東日本大震災後、私は東京からボランティアとして通い始め、2015年の秋には市の産業復興支援員という職を得て、石巻に移住してきました。当時の産業部長さんからお誘いを受けたことがきっかけでしたが、決め手はなんといってもこの街の魚がとびきりおいしいことでした。

東京で長らく、フリーランスの編集者、ライターとして雑誌づくりに関わってきたキャリアを買われ、ミッションは「とにかく石巻をPRせよ」というものでした。そこで私は、石巻の総合情報サイトを立ち上げ、地元食材を使ったレシピ集やイベント情報、街の歴史についてなど、あらゆる角度から石巻の魅力を伝えるコンテンツを作ったのです。その中のひとつが『石巻さかな女子部』でした。

私にはかつて、小笠原諸島の父島でひょんなことから釣り船のお手伝いをして暮らした経験があったので、都会暮らしであってもなるべく魚は丸ごと一尾を購入、自分でおろして頭も骨も棄てずに出汁をとるという習慣がありました。しかし、ほとんど独学だったので、この機会に自分自身が学びたいと思ったのです。

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協力してくれた老舗鮮魚店『魚長』(2018年閉店)の大将と女将と一緒に

そこで、月に一度、鮮魚店に弟子入りし、旬の魚のおろし方を教わりレポートを掲載するというシンプルな企画を立てました。カメラマンさえ調達すれば、自分ひとりでも成り立つと思っていましたが、既に2回目からは部員が3人に増え、その後も回を重ねるごとにメンバーが増えていきました。記事の最後に書いておいた『部員募集!』という文字に、たくさんの女性たちが反応してくれたのです。

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鮮魚店の職人さんからプロの技を学ぶという贅沢な機会

魚の街、石巻に住んでいても、お買い物をするのは大手スーパーがメイン。鮮魚店で地魚を買う機会が少なく、自分で魚をおろしたことがないという人は意外に多かったのです。でも、せっかく海の近くに住んでいるのだから、機会があれば魚おろしを学んでみたい、そんな潜在的なニーズがありました。ほとんどのメンバーが魚おろしの初心者でしたが、一度体験してみるとその面白さにはまり、以後は鮮魚店でまるごと一尾を購入、頭からしっぽまで棄てずに出汁をとるなど、今までにはなかった豊かな食を満喫するようになりました。(もちろん中には、みんなで集まった時にしかやらない、と言うメンバーもいますが)

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    みんなでお揃いのエプロンやTシャツも作りました
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    冬はタラ、アンコウ、どんこにボッケ、春は鯛、太刀魚、夏はホヤやブリ、
    秋は鮭や鯖など石巻の豊かな旬を堪能しました

自分で魚をおろせるようになり、その楽しさを実感すると、食生活がグンと豊かになるばかりか、ライフスタイルや生き方まで変わる。それが私が提唱する『石巻さかな女子部』の信条であります。

学ぶだけでなく、楽しさを伝える側に

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2020年にはフリーペーパーも発刊!地元だけでなく、
東京や西日本のお店などにも配布し、大好評を得ました

こうして『石巻さかな女子部』は私が約2年間務めたフルタイムの職を辞し、独立した後も市の許可を得て、プライベートな部活動として継続していくこととなりました。『旬のお魚おろし会』は残念ながら、教わっていた老舗鮮魚店の閉店に伴い、回数が激減。しかしその分、活動内容は多岐に渡り、オリジナルレシピを開発してイベントで販売したり、地元の物産館と連携し、買い物客に魚のおろし方を教えるなど、自分たちが教わるだけでなく、伝える側としても活躍するようになりました。

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    『いしのまき元気いちば』でのイベント。
    夏の味覚、ホヤのおろし方を伝授、いろいろなホヤ料理を作り、試食会も行いました
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    毎年夏には、お祭りやイベントで『石巻さかな女子部』の名物となった
    オリジナルレシピ『ほやなでしこ』を販売します
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    こちらが定番のオリジナルメニュー『ほやなでしこ』。
    紫蘇入りのごはんをホヤで巻いててんぷらにしています

全国の課題、未利用魚にも挑戦中

また昨年来のコロナ禍では、市の水産課や漁師さんたちと連携し、「未利用魚」や「低利用魚」と呼ばれる魚たちについてのプロモーション活動などに力を入れてきました。

未利用魚、低利用魚とは、底びき網などに入ってくる「売れないお魚たち」のこと。水揚げしても売れずにゴミになってしまうため、海上で棄ててきてしまうことも多いという、残念なお魚たちのことです。

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未利用魚、低利用魚については、フリーペーパーの中でも紹介しました

売れない理由は魚種によって異なりますが、まず共通するのは知名度が低いということ。そうでなくても魚を食べる人が減っている昨今、わざわざ知らない魚を買って食べようとは思わないのが人情です。特に石巻でとれる未利用魚の多くは深海魚で、若干見た目がグロテスクだったり、頭が大きくて食べられる部分が少ないなどのハンデもあります。

そこで我々『石巻さかな女子部』が、「売れないお魚」をなんとか「売れるお魚」にしようと、もっかあれこれ研究中。第一弾は、石巻でとれる未利用魚の中でもとっつきやすいと思われた「カナガシラ」に挑戦、漁師さんたちから依頼を受け、レシピ集も作成しました。鮮魚店に配布し、実物のカナガシラを販売してもらう際、お客さんに一緒に渡してもらおうという作戦です。

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「宮城県沖合底びき網漁業協同組合」からの依頼で作成したカナガシラのレシピ集

未利用魚は石巻だけでなく、全国の漁港の課題となっています。それぞれの土地でいろいろなお魚が網にかかっては棄てられているという現実、多くの人に知ってもらい、考えるきっかけになればと思います。

楽しくておいしくて、環境問題などにもつながっていく魚食文化の奥深さ。これからも一般消費者という素人目線を一番の武器に、『石巻さかな女子部』は魚の面白さを発信していきます。

石巻さかな女子部
フリーペーパー

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※ 石巻さかな女子部のフリーペーパーは
こちらからダウンロードできます

取材・文

塩坂佳子(しおさか よしこ)

ライター、編集者。合同会社よあけのてがみ代表。『石巻さかな女子部』主催。
長く東京で雑誌の仕事をしていたが、東日本大震災後はボランティア活動をしに東北へ通い、2015年秋には宮城県石巻市へ移住。石巻市産業復興支援員を経て、2017年には合同会社を設立し、オリジナルキャラクターブランド『東北☆家族』や民泊『よあけの猫舎』を運営、印刷物やイベントの企画・編集、制作なども手掛ける。魚の街・石巻から日本の魚食文化復活を叫ぶ『石巻さかな女子部』部長としても活動を続ける。

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