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vol.23
2021.6.28

鯨食文化で活性化石巻市牡鹿半島 鮎川ポートバレーナ

宮城県石巻市の牡鹿半島の突端にある鮎川地区に2021年5月8日、鯨料理を出すレストランカフェ『ポートバレーナ』がオープンしました。店主は、深刻な人口減少に苦しむふるさとの活性化に寄与したいと、3年前に県外から戻ってきた元自衛官の斎藤郁弥さん(26歳)。鮎川地区が誇る鯨食文化を若い人にも伝えていきたいと、両親と力を合わせ、お店を立ち上げました。

商業捕鯨中止と東日本大震災

明治時代から始まった日本の近代捕鯨、その拠点のひとつとして牡鹿半島の鮎川地区は栄えました。しかし、1960年代をピークに、70年代に入ると鯨肉の需要が落ちるなど勢いに陰りが見え始め、1988年には捕鯨に反対する国際世論におされる形で、日本が商業捕鯨を中止。以降、鮎川地区の産業の柱は、観光業となっていきました。

「竹下内閣によるふるさと創生事業で、捕鯨の歴史と文化を伝える『おしかホエールランド』が建設されました。また、東奥の三大霊場のひとつと言われ、世界中からお参りに来る人が絶えなかった金華山(石巻の離島)行きのフェリーがここから出るとあって、私がお嫁に来た頃には、一大観光地でしたね」と話すのは郁弥さんの母、斎藤恭子さん。斎藤家も、家業のわかめ養殖と民宿経営を両立し、忙しくも張りのある毎日を送っていたと言います。

しかし、2011年3月に起きた東日本大震災では、鮎川地区だけで100名の犠牲者が出て、海が見える場所に建つ斎藤家も全壊の被害を受けてしまいました。地区のランドマークだった『おしかホエールランド』も全壊、民宿やホテルが並んでいた中心エリアは津波にさらわれ、街の形がほとんどなくなってしまったのです。

かつて、捕鯨でわいた1950年代半ば頃には4000人が住んでいたという記録が残る鮎川地区。震災前年の2010年には約1400人まで減っていましたが、現在はそのおよそ半分、約700人となってしまいました。

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金華山(離島)行きのフェリーも便数が激減し、現在は週に一度、日曜日だけの出航となってしまった

わかめ養殖から小売業も。
復興市から始まった地域のための副業

東日本大震災から3カ月後、まだ電気も通らない中、鮎川地区では住民たちが自分の家に残った物を持ち寄って販売する『復興市』が立ち上がっていました。斎藤家でも、たまたま別の場所に保管していて無事だったひじきやふのり、とろろ昆布などをかき集め、さらに隣町にあった友人の洋服店から商品を借りてくるなどして、販売。生活用品を欲していた住民たちからおおいに喜ばれました。

「地域のために何かしなきゃ!と、わかめ屋なのに借りてきた服なんか売って、とにかく無我夢中でした」

復興市は毎週水曜日の開催が恒例となり、復興商店街が完成するまでの約半年間も続いたのです。その後も斎藤家では、各地で開催された復興支援イベントに出店し、自分の家のわかめだけでなく、地元のいろいろな商品を仕入れ、販売するようになりました。イベントを盛り上げるためには飲食屋台でも出店。さまざまなメニューを試しましたが、中でも鯨の竜田揚げは鮎川の代表的な郷土料理。昭和の時代に学校給食に出されていたことから懐かしがる人も多く、斎藤家がイベントに出店する際の看板商品となっていきました。

地域をけん引する成功例に

そして、2019年には日本がIWC(国際捕鯨委員会)を脱退し、31年ぶりに商業捕鯨を再開。鮎川地区は日本屈指の鯨の街として再び注目を浴びることとなりました。さらに同じ年の秋には、再建した斎藤家の目の前に大型観光施設『ホエールタウンおしか』がオープン。震災から10年、ようやく牡鹿半島の観光業が息を吹き返そうとしています。

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石巻市の鮎川地区にできた『ホエールタウンおしか』。お寿司屋さんなどの飲食店やお土産店がある観光物産交流施設『Cottu(コッツ)』と『牡鹿半島ビジターセンター』、巨大なマッコウクジラの骨格標本などが展示される『おしかホエールランド』(再建)の3施設が連なる

かつての賑わいを取り戻すためには周辺の活性化も必須と、自宅近くの空き地を利用して何かできないかと考えていた斎藤家。両親の呼びかけで、3年前には自衛隊員として福島県に駐在していた長男の郁弥さんが仕事を辞めて戻り、家業のわかめ養殖を手伝いながら、カフェ建設計画がスタートしました。

そして2021年5月、ついに『ポートバレーナ』をオープン。英語とイタリア語を組み合わせ「クジラの港」という意味を店名に込めました。

「さあ、これから!という時にコロナ禍に見舞われましたが、カフェ運営など何もかもが初めての自分たちには、かえってスロースタートになってよかったのかも」と郁弥さん。現在は、民宿経営で経験がある父が調理を担当、母がホールを手伝ってくれているが、ゆくゆくは若い人たちを雇用して、この街の関係人口や移住者を増やしたいと話します。

「牡鹿半島は県外からサイクリングやツーリングを楽しみに来る人も多く、車で5分ほどの場所にはキャンプ場もある。お店や立ち寄りスポットがあれば、多くの人が利用してくれると思います。うちのお店が成功すれば、他の人たちもやろうと思ってくれるはず。そんな地域の活性化をけん引する、前例になれればいいなと思っています」

今後も鯨料理をアレンジし、若い人にも食べやすく、カジュアルなメニューを開発していきたいと話します。

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大型施設『ホエールタウンおしか』の向かい側にオープンしたカフェ『ポートバレーナ』。
鯨をメインにしたメニュー。夜営業も行う
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港をイメージさせる爽やかな店内。
今後は奥の小上がりでミニライブなど、観光客や地域の人たちが一体となれるイベントも開催していく
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鯨の竜田揚げ丼定食。家業である養殖わかめを使った小鉢もつく。
今後は洋風アレンジのメニューにも挑戦していく予定

ポートバレーナ

住所
宮城県石巻市鮎川浜南1-5
TEL
0225-45-2244
営業時間
10時~14時 & 17時30分~21時頃 
※季節によって変更あり
インスタグラム
https://www.instagram.com/cafe_portbalena/

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取材・文

塩坂佳子(しおさか よしこ)

ライター、編集者。合同会社よあけのてがみ代表。『石巻さかな女子部』主催。
長く東京で雑誌の仕事をしていたが、東日本大震災後はボランティア活動をしに東北へ通い、2015年秋には宮城県石巻市へ移住。石巻市産業復興支援員を経て、2017年には合同会社を設立し、オリジナルキャラクターブランド『東北☆家族』や民泊『よあけの猫舎』を運営、印刷物やイベントの企画・編集、制作なども手掛ける。魚の街・石巻から日本の魚食文化復活を叫ぶ『石巻さかな女子部』部長としても活動を続ける。

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