漁村の活動応援サイト
vol.28
2021.10.18

海の変化と向き合う「働くの形」Retreat Ohana&CAFE自由虹じゆうにじ山口匡代さん・一広さん

ここは、伊勢志摩の人気スポット 志摩地中海村。眩しい空と伊勢志摩の海を展望できる一角に辿り着くと、カキ氷の旗をなびかせるキッチンカーの姿がありました。笑顔で出迎えてくれたのは、山口匡代さん、一広さんご夫婦(以下、匡代さんと一広さん)です。

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匡代さん 「はい、お待たせしました。」

元気ハツラツな匡代さんから、無農薬の伊勢志摩産マイヤーレモンを使ったカキ氷を受け取ります。とっても爽やかで甘酸っぱくて美味しい、暑い夏にぴったりな一品です。

匡代さん 「これからの時代は何歳になっても先がわからないので、何でも楽しんでやってます。」

実はお二人とも現役の海女さんで、キッチンカー販売や貝殻アクセサリー作り、カフェや簡易宿泊所経営など、とてもマルチな働き方をされています。今回はそんなお二人に海女漁やお仕事のこと、過去・現在・未来に向けて色々とお尋ねしてきました。

記事中、女性の海女あまと男性の海士あまが登場しますが、どちらも指す場合は海女の表記で統一します。

伊勢志摩 御座ござの海女夫婦

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御座岬でベテラン海女さんと漁に向かう様子

お二人が住む志摩市志摩町御座は、英虞湾と熊野灘・太平洋に面する町。毎年夏になると、三重県でも有数の海水浴場「御座白浜海岸」には多くの観光客で賑わいます。

また漁業の町として、伊勢海老漁師や海女さんが多い地域です。

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伊勢海老漁の様子
【匡代さん提供】

一広さんは1963年に御座で生まれ、育ちました。1945年頃は真珠養殖やカツオ船、現在は伊勢海老漁が盛んです。また、1965年頃から観光地として賑わい始め、伊勢志摩の観光地「賢島」の開発で近鉄電車の開通をきっかけに、御座白浜に海水浴客が訪れるようになりました。

一広さん 「今では信じられへんやろうけど、100人〜200人乗れる大型巡航船が賢島から御座と浜島を繋いどったんですよ。海水浴シーズンには、港から白浜までずっとたくさんの人。」

そこから移動手段が車へと変わり、大きなホテルもできたり....そんな激動の時代を一広さんは、間近で見てきました。

20代は主にイサキを釣って生計を立ていた一広さん。30歳になる頃には、だんだんとイサキが釣れなくなり、海士あまになる道を選びました。

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2017年6月ごろ、御座漁港にて
【匡代さん提供】

匡代さんが一広さんと結婚したのは約11年前(2010年)。海女さんの紹介で、御座白浜でキャンプ場運営のお仕事で出会いました。

元々は大阪に住んでいた匡代さんは、父親の定年退職をきっかけに志摩へ移住。

匡代さん 「母は他界していなくて、私は一人っ子。父は釣りが好きで海の近くが良くて引っ越してきました。」

匡代さんは結婚後、海女になりました。

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2019年9月ごろ、匡代さんが獲った見事な鮑
【匡代さん提供】

目に見えて実感する、海の変化

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一広さん 「昔はね、たくさんおったんですよ。」

一広さんが潜水をして海中の岩場に手をつくと、そこには大きな鮑がいたと、当時を振り返ります。魚に、カジメやアラメなどの海藻も豊富な御座の海。

そんな海の変化を見続けてきた海女さんたち。特に去年、一昨年にかけては目に見える変化が海の中で起こっていました。

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2020年夏頃、1日で匡代さんが獲ったサザエ

海中に潜り岩場に近づけば海藻が繁り、それらをかき分け鮑やサザエを獲っていたのが3年前。2年前には葉がなくなり茎だけが残る海藻となり、去年にはとうとう岩場に海藻の姿はありませんでした。

匡代さん 「去年や一昨年くらいですかね、(潜らなくても)上から貝が見えるんですよ。」

去年までは、多い時で1日70kgのサザエを獲った匡代さん。今年は1個〜5個という日も多いそうです。また、気候の変化で出漁できる日数も減ってきています。今年から海女や漁師の仕事を徐々に控えて、他の仕事に就く人も多くなりました。海女や漁師1本で生計を立てられた地域に訪れた変化に、お二人はもどかしさを感じています。

一広さん 「徐々に悪くなっていく反面、どこかで徐々に治っていくところがあれば、希望になってみんな頑張れるんじゃないかな。自分は一生、海で食っていけると思っていたので、それは誤算やったね。」

健康と元気!また、会いたくなるお二人の魅力

お二人は現在、海女以外にもキッチンカーや出店販売、簡易宿泊所やカフェ、貝殻アクセサリー工房などを運営されています。また、匡代さんはスポーツインストラクターとして、エアロビクスや空手の講師もされていてとってもパワフルです。

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    鮑の貝殻で作られたアクセサリー 写真の左側:一広さん作・右側:匡代さん作
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    サップサーフィンのインストラクターでもある匡代さん。運動神経抜群です。

匡代さん 「先生(匡代さん)とおったら元気になれるって、よく言われるんですよ。」

もっと誰かに元気になってもらうために自分ができる事をしよう、そんな思いが原動力となって、現在の働き方に繋がっています。

予約制カフェと簡易宿泊所兼自宅は、志摩町御座の海を一望できる高台にあります。約9年前に、一広さんの親戚から空き物件を紹介してもらい購入。屋外だった場所を喫茶スペースに改築したり、屋内をDIYでおしゃれな空間にして「簡易宿泊所 Retereat Ohana」や「CAFE自由虹」を創り上げていきました。

Retereat Ohanaの「Ohana」はハワイ語で家族を意味します。

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10数年の交友のある仲良しご家族

「簡易宿泊所 Retereat Ohana」や「CAFE自由虹」がオープンしてから約8年が経った現在、同じご家族でも利用される組み合わせが様々に。

匡代さん 「例えば常連の中西さんは、ご家族、ご夫婦、子どもさんの友達同士に親戚同士。中西さんから予約があったら、どんな組み合わせの中西さん達が来るのかわからないのが面白いです。」

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平日予約CAFE「自由虹」にて 月1回の「カレーの日」

CAFEや簡易宿泊所のテーマは「健康」です。

匡代さんはヨガなどの運動に加えて、足つぼと食生活改善で健康にする「足識食癒そくしきしょくゆ施術法せじゅつほう」を用いた施術もされています。

匡代さん 「足識食癒施術法では素食が一番という考えもあって相反しますけど、私は良いものを使った美味しいものをいっぱい食べてもらうのが一番かなと思ってます。」

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CAFE自由虹のこだわりシーフードカレーメニュー

その日の気分によって今日は胃に良いもの食べようと思う時もあれば、お腹空いているからガッツリ食べる日もあり、健康に対する考え方は十人十色でみんな違っています。「簡易宿泊所 Retereat Ohana」、「CAFE自由虹」では食べ物も一人一人に合わせて、それぞれお客様が選びやすい方法で提供しています。

ハワイアン料理やオーガニック料理は匡代さん、御造りなどの海鮮料理は元和食料理人でもある一広さん担当です。何度も食べたくなる美味しいお料理に、元気が湧いてくる場所。繰り返しリピートされるのは、何といっても匡代さんと一広さん、お二人の魅力です。

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可愛い愛犬の麒麟くん(左)ときなこちゃん(右)に会いたいファンも

たどり着いたのは
「完全予約と自ら出向いていく柔軟な体制」

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オレンジの軽トラは海女漁でも出店販売でも活躍。

ここ数年は海女と他の仕事もしながら、簡易宿泊所もカフェも運営してきたお二人。あちらを立てれば、こちらが立たずという状態を繰り返してきました。そうしたトライ&エラーの積み重ねによって、たどり着いたのがカフェを平日のみの完全予約制とすることでした。

本来であれば稼ぎ時であった海女漁シーズンも、先行き不透明な状況です。来年からは海女漁に重点をおかず、その分はカフェやキッチンカー・出店販売、その他のお仕事に力を注いでいく方針です。

匡代さん 「私、何もせずにただ待つのが苦手なんですよ。待つんだったら、お客様の居る所に行こうって考えなんです。」

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キッチンカーでは、カキ氷以外にも香港の焼き菓子「エッグパフ」や綿菓子など、出店場所の要望に応じて柔軟に対応できるようなレパートリーを揃えています。出店先から「◯◯できる?」というお声に柔軟に対応できるのは、お二人のキッチンカーが人気な理由の一つです。

人生の最期をハッピーエンドに

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一広さん 「(匡代さんのこれやりたい!に対して)これはなぁと思う時もあるけど、まぁやってみやんとなって。ここ(Ohana)に拠点を移せたのは良かった。」

匡代さん 「映画のインディ・ジョーンズって、アクシデントがあっても奇跡が起こって最終的にはハッピーエンドになるでしょう。あれが自分の人生で起こって欲しいって思ってます。」

海の変化に真っ直ぐと向き合い、日々を楽しみながら挑戦を続ける匡代さんと一広さん。そんなお二人から、今日も元気を受け取っている人がいます。

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Retreat Ohana&CAFE
自由虹


住所
三重県志摩市志摩町御座130-8
公式Instagram
https://www.instagram.com/jyuuniji_kinako_kirin_ohana/

取材・文

濱地雄一朗 | Yuichiro.Hamaji

三重県で活動する地域ライター。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごしています。専門は物産と観光、アクティビティ体験など。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。

三重県お土産観光ナビ
https://mie-hamaji.com

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