漁村の活動応援サイト
vol.30
2021.11.15

熟練漁師が若手に学び、島の漁業存続に挑む!
田代島の漁師とフィッシャーマン・ジャパンの取り組み

最近では猫が多い「猫島」としても知られるようになった宮城県石巻市の離島、田代島。しかし島の漁業については、人口減少と高齢化で、衰退の一途をたどっているのが現状です。この状況をなんとかしたいと地元漁協が、若手漁師集団『フィッシャーマン・ジャパン』に協力を要請。若手と熟練漁師がタッグを組み、田代島の魚のブランド化を推進。その取り組みについて聞きました。

とった魚に手間をかけ、価値を高める

1960年代では約1000人だった島民が、現在は61人(2020年の住民台帳調べ)、高齢化率は8割を超え、平均年齢70代後半に達したという田代島。かつて盛んだった農業は衰退し、現在は観光業と漁業が主な産業に。しかしいずれも細々として、担い手や後継者不足にあえいでいるのが現状です。

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島に漁師は17人。そのうち、刺し網やカゴ漁、小型定置網などで魚をとるのは10人で、稼ぎ頭は80代。地元漁協ではこの状況を危惧し、2017年に製氷機を導入、その翌年には島の漁業の存続をはかろうと、宮城県を中心に活躍する『フィッシャーマン・ジャパン』に声を掛けました。

『フィッシャーマン・ジャパン』とは、「3K(きつい、汚い、危険)」と言われてきた水産業を「新3K(かっこいい、稼げる、革新的)」の職に変え、自分たちが豊かになるだけでなく、次世代にも引き継いでいこうと集まった若手漁師の集団です。一般社団法人と株式会社の2つの器を使い分け、担い手づくりや海の環境保全など、多角的な観点からさまざまな活動を行い、新たなビジネスも次々と生み出してきました。

そんな彼らが田代島の未来のため、島の熟練漁師たちに助言したのは、一尾一尾の魚を丁寧に扱い、品質を高め、魚の価値を上げる方法。量より質で攻める、環境にも優しい漁業の実践です。それはすなわち、魚をとれるだけとり、我流の方法で出荷してきた今までのやり方を変え、魚のしめ方(血抜き)や温度管理までを徹底的に学び直すという、熟練漁師には厳しい内容でした。それでも10人中3人が、取り組みに参加したいと表明。御年82歳と72歳、71歳の田代島の漁師です。

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「まず苦労したのは、こちらのやり方の方が良いと納得してもらうこと」と話すのは、販路拡大などビジネス部門を担う株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの代表、津田祐樹さん。田代島の魚が石巻の中心部に到着するまでは、島民の生活航路であるフェリーにのせて約40分。朝にとった魚も、到着するのは朝のセリ終了後の9時頃とあって、手をかけなければ鮮度が落ちてしまいます。また、本土で水揚げする魚に比べれば、店頭に並べるのも遅れるため、これまで田代島の魚は安価で買いたたかれる傾向がありました。

そこで津田さんたちは、イチから魚のしめ方などを熟練漁師たちに理論立てて解説。フィッシャーマン・ジャパンが魚市場よりも高値で買うことを約束し、鮮度を保つ氷水の温度管理についても徹底的に伝授して、漁師たちに魚の質を上げるよう求めました。

「しっかりと活じめをして、2度から5度の氷水につけて搬送すれば、上質かつ鮮度のいい状態に保てます」と津田さん。しかし最初の頃は、水温が0度近くになっていて魚が凍っていたり、逆に10度を超えてドロドロになっているなど、港で田代島からの魚を受け取るとすぐに漁師たちに電話をし、問題点を伝える必要があったと言います。

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難しい注文に、はじめは戸惑うことも多かった様子の熟練漁師たち。しかし次第に「自分たちで魚の品質を上げ、良い商品を消費者に届けることにやりがいを感じ始めたようだ」と地元漁協の担当者から報告が入るようになりました。新しい水産業を目指す若手漁師たちとの交流が、80代の漁師に新たな仕事のやり甲斐をもたらし始めたのです。

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その甲斐あって、田代島からはだんだんと良い魚が送られてくるようになりました。そして、フィッシャーマン・ジャパンがこれなら!と田代島の魚をブランド化し、いよいよ本格的に売り出そうとした矢先、世界的な災害ともいえるコロナ禍が始まったのです。

コロナ禍で鮮魚の売上が9割減
それでも攻め続け、田代島丼を発表

居酒屋などに魚をおろし、地元の大手スーパーにも鮮魚コーナーを持つフィッシャーマン・ジャパン。コロナ禍では、その両方が大打撃を受け、鮮魚の売上は9割近くも減少してしまいました。

しかしその一方、自社で運営する飲食店部門では、2021年4月に『牡蠣と海鮮丼のお店 ふぃっしゃーまん亭』を仙台空港に、5月には三陸の海の幸を提供する飲食店『フィッシャーマン・サンドイッチ』を東京駅構内に相次いでオープン。機を逃さず攻める! それが、フィッシャーマン・ジャパンのやり方でもあります。

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東京駅構内にオープンしたフィッシュサンド専門店
※後述のとおり、期間限定出店です。
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仙台空港2階にオープンした蒸し牡蠣と海鮮丼を出すお店

そして、オープンから半年後にはついに、熟練漁師たちが丁寧に手をかけた魚を使用する『田代島丼』が仙台空港のお店にお目見えしました。田代島のPRも兼ね、猫のキーホルダーをおまけに付けるなど、目を引くアイデアがお客さんに好評。田代島丼は順調なスタートを切ったといいます。

「島の漁師さんたちが魚を出荷するのを楽しみにしてくれていると聞いて、がんばって売ってあげなきゃ!と思いますね。また、田代島の漁業が稼げるとなれば、漁師を目指して移住してくる若者が現れるかもしれません」と津田さん。漁業が変われば、島の未来も変わっていくに違いありません。

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活〆の魚のおいしさを堪能できる田代島丼

「コロナ禍でたとえ魚価が安くなったとしても、続けていきたい」。そんな風に話しているという田代島の漁師さんたち。何十年も続けてきた我流の方法を棄て、地道な努力で本当に美味しい魚を実現しました。そもそも田代島は、島自体が根となっていて、豊富な魚が寄りつく最高の漁場。恵まれた自然と人の手が作り出す豊かな味を確かめに、ぜひ仙台空港にある『牡蠣と海鮮丼のお店 ふぃっしゃーまん亭』に足を運んでみてください。

フィッシャーマンジャパン

ウェブサイト
https://fishermanjapan.com/
オンラインショップ
https://shopping.geocities.jp/fishermanjapan/

牡蠣と海鮮丼のお店 ふぃっしゃーまん亭

ウェブサイト
https://fishermanjapan.com/project/ふぃっしゃーまん亭/
場所
仙台空港2階
営業時間
9:30~19:30 L.O. 19:00 年中無休
席数
6席
メニュー
(一部)
① 女川 マルキン『銀鮭の王様 銀王丼』 1,500円
② 気仙沼 臼福本店『本マグロ二色丼』 2,200円
③ 塩竈 明豊水産『一本釣り藁焼きビンチョウマグロ丼』 1,500円
④ 塩竈 明豊水産『一本釣り藁焼きカツオ丼』 1,500円
⑤ 宮城産『濃厚な甘みのプリプリ蒸し牡蠣』 300円
など
※ 朝の10:30までは朝ごはんメニューでお茶漬けを販売しています。
※ 価格は税込み

フィッシャーマン・サンドイッチ
(期間限定出店)

ウェブサイト
https://fishermanjapan.com/project/フィッシャーマン・サンドイッチ/
期間
2021年5月19日から期間限定出店。
詳細はウェブサイトをご確認ください。
場所
東京駅 改札外
JR東京駅 地下丸の内中央口改札出て直進(丸の内線改札のまえ、KINOKUNIYAの目の前)グランスタ内
営業時間
平日8:00~21:30、土日祝8:00~21:00
メニュー
① サンドイッチ各種 734円/748円(テイクアウト/イートイン)
・銀鮭の王様「銀王」の香草グリルサンド
・本日のサンドイッチ
(土日祝日は全種類のサンドイッチが揃います)
② 魚介だしのスープ 410円/418円
③ ベジタブルかまぼこのサラダ 648円/660円
※ 価格は税込み

取材・文

塩坂佳子(しおさか よしこ)

ライター、編集者。合同会社よあけのてがみ代表。『石巻さかな女子部』主催。
長く東京で雑誌の仕事をしていたが、東日本大震災後はボランティア活動をしに東北へ通い、2015年秋には宮城県石巻市へ移住。石巻市産業復興支援員を経て、2017年には合同会社を設立し、オリジナルキャラクターブランド『東北☆家族』や民泊『よあけの猫舎』を運営、印刷物やイベントの企画・編集、制作なども手掛ける。魚の街・石巻から日本の魚食文化復活を叫ぶ『石巻さかな女子部』部長としても活動を続ける。

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