2005年に大学を卒業後、吉村さんは別の大学院に進み、沖縄県で研究生活をスタートさせました。独特なカツオ漁法を調査して、人々の技術や工夫、知恵などから自然観をあぶりだし、カツオ漁が地域でどんな位置づけにあるのかなどを研究。文献や資料の分析だけでなく、地域を足で周って人々と交流し、自ら暮らしを楽しむことで、イキイキとした調査を実現してきました。
研究拠点を沖縄から、現在の大気海洋研究所に所属を変え、岩手県大槌町に移住したのが2017年。主にサケの研究を通じて、三陸の人々が海や水産資源とどのように関わって暮らしてきたのかを調査しています。
「サケの産地といえば北海道のイメージが強いと思いますが、岩手県全域でも、長く人々の暮らしを支えてきた無くてはならない特産品。北海道とは気候がまったく異なるので、保存方法などの技術だけでなく、三陸特有の生態を有しているといった面白いこともわかっています。また、サケにまつわる地域の伝承などを調べていくと、その土地独特の考え方や風土が浮き彫りになってきますよ」
こうした調査で得られた情報を三陸の子供たちに伝えていくことで、地域文化の継承や地域理解の一助になれれば、と吉村さん。ここは、東日本大震災で甚大な影響を受けたエリア。その活動は、より特別な意味を持っていきます。
子どもたちに地域を伝える
海と希望の学校 in 三陸プロジェクト
現在、吉村さんは『海と希望の学校 in 三陸』プロジェクトに参加。これは、三陸の海に誇りを取り戻し、地域に希望を育むことを目標に大気海洋研究所と社会科学研究所が展開する地域連携プロジェクトで、海沿いに建てられた『おおつち海の勉強室』での活動を中心に、研究者たちと子どもたちが交流を深めています。
『おおつち海の勉強室』には、近隣の海から採取したさまざまな展示物がところ狭しと並び、本物の研究者たちから直接、レクチャーを受けることができます。その日の担当者によって研究分野が異なるため、訪れるたびに違う角度からの解説が受けられるという贅沢な場所。地元の県立大槌高校には海について調べる「はま研究会」が発足、生徒たちが研究の手助けに訪れるなど密接な交流が続いています。
また、プロジェクトでは研究者たちが地元の学校に赴き、出前授業も実施。研究内容の紹介だけでなく、地域の話題を取りあげることで身近に感じられる対話型授業や地域の水産物を題材としたさまざまな実習など、ワクワクするような内容で子どもたちの興味関心を引き出していきます。
実施期間は2022年までとなる『海と希望の学校 in 三陸』プロジェクト。その後については考え中だが、将来的には自身の研究を魚食教育に発展させ、子どもたちに水産業の裾野を広げる活動をしたいと話す吉村さん。温暖化の影響で、全国的に今までと同じ魚がとれなくなってきた昨今。経済活動としては、これからの漁業や戦略についても考えることが急務であり、未利用魚や低利用魚と呼ばれる魚についても、注目していく必要があると言います。
「ある地域ではとれても棄てられてしまう魚が、別の地域では高級魚として扱われているなど。知らないから食べない、ということが往々にしてあるので、いろいろな魚の情報を伝えていくことは重要だと思います」
自身も郷土料理の本や文献を読み、地元の人に話を聞くなどして、おいしい魚の食べ方を探求するのが大好き。これからも研究を研究だけに終わらせず、地域と深くつながって、海と人の暮らしの未来を作る力になりたいと話します。
沖縄での経験を活かし、三陸の子どもたちにシイラの調理法や活用事例などについてもレクチャーする吉村さん