漁村の活動応援サイト
vol.36
2022.2.14

生産者が直接お客さまの声を聞き、行列のできる牡蠣小屋を実現広島県廿日市市 島田水産

江戸時代から創業300年以上もの歴史を持つ牡蠣養殖の老舗、島田水産。15年ほど前からは、かき小屋経営や観光ツアー、海外輸出にも着手し、養殖、加工のみならず、直接お客様とつながる事業を展開。最近では、行列のできるかき小屋としても有名になってきた、その背景を取材しました。

自社ブランドで突き抜けて、業界を底上げ

毎朝、目の前の海から直接、ベルトコンベアを使って大量の牡蠣を水揚げ。敷地内には、牡蠣うち(牡蠣の殻をむく作業)などを行う作業場とかき小屋、お土産用の直売所など、すべての設備が揃い、お客さんは、生産現場の豪快な雰囲気を楽しみながら、とれたての牡蠣をほうばることができます。籠に入った殻付き牡蠣が、セルフサービスで食べ放題。他にも牡蠣料理が充実するとあって、国内のみならず海外からもリピーターが絶えません。

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    海と作業場を直接つなぐベルトコンベア
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    牡蠣の殻をむく作業場。ここに海から直接牡蠣が届く
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    1階にはかき小屋が。中にはお土産の直売所も完備
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    海からの眺め。客席は、小屋以外にも海を眺める桟橋や個室まであり、全75席!

仕掛け人は、前社長の島田俊介さん(現・会長)。約15年前、広島県内ではおそらく初となる牡蠣小屋をスタート、その思いは「島田水産をブランドにする!」というものでした。

17歳で歴史ある老舗を継ぎ、血気盛んな30代では組合でブランド牡蠣の立ち上げに奔走。しかしこの時「みんなで一緒にやる」ということの難しさを痛感。すべて自分でやって、自分で責任をとる方がいい、そんな境地に至ったと話します。

「それからは直接、消費者と話をしようと思い、お客さんに食べてみたい、見てみたい、と言われたことを形にしていきました。それが、かき小屋や観光ツアーを始めるきっかけになったんです。また、牡蠣は生産者が作っているのだから、生産者が伝えないと!と、マスコミの取材にも積極的に応えるようにしていきました」(島田俊介さん)

自社の名前をブランドにして突き抜ける。ひいてはそれが、広島の牡蠣を有名にし、業界全体の底上げにつながると島田会長。

その思いに誰よりも応えてくれたのがお客さんたちでした。実際に来た人たちがSNSなどで拡散、クチコミがクチコミを呼び、今の人気につながっています。

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    島田俊介会長(右)。左は現社長で息子の泰昌(ひろまさ)さんと孫の舜大(としはる)くん
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    「生産者が伝えないでどうする!」と発信を続けてきた島田会長

新しいことをやれる社風、やりがいも大きい

アルバイトやパートを含め、従業員は約30名。「コロナ禍では大赤字」と苦心しつつも、雇用を守ってきたという島田水産。広島でも後継者不足に悩む事業者が多い中、こちらでは、若い人の姿が目立ちます。

正社員のひとり、三宅將(まさる)さんは、会長の息子で、現在は社長を務める泰昌さんの幼馴染。県外に出て飲食業界などを経験した後、地元に戻って島田水産に入社。10代の頃にアルバイトをしていたこともあって信頼が厚く、かき小屋の店長に抜擢されました。

始めの頃はお客さんが1日に10人も来ればよい方。養殖や加工などかき小屋以外にもやることが山積みで、休みの日に旅行会社へ営業に行くなど、苦労もあったと話します。

「それでも、やってみたいと思うことは、前例がなくても『やってみろ!』と応援してくれる社風。新しいことに挑戦するのは面白いし、やりがいもある。しんどくても続けたいと思えた理由ですね」と三宅さん。

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    三宅將さん。かき小屋業だけでなく、自ら船を操縦し、お客さんを遊覧船ツアーにも連れていく
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    たくさんの牡蠣筏と宮島を望むおだやかな広島湾
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    牡蠣筏に上陸し、実際に海の中で育つ牡蠣を見せてもらえる
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    屋形船を使って海上での牡蠣小屋なども検討中だとか

しかし、島田水産の本業はあくまでも生産。海のことをしっかりとおさえたうえでなければ、飲食や観光業に着手しても意味がないと話します。

「自然が相手なので悪い時だってあるし、生産者の牡蠣だから新鮮で当然とハードルは高い。でもその上で、本当においしい牡蠣を提供するからこそ、お客さんが納得してついてきてくれるんだと思います」

生産者ならではのサービスを惜しみなく実現してきた島田水産。コロナ禍での苦労はありましたが、国内外でのファンを今なお着々と増やし続けています。

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対岸には観光名所、宮島もあるとあって、特に休日にはたくさんのお客さんが
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牡蠣の養殖棚とそのすぐそばの海に浮かぶ世界遺産「厳島神社」をめぐる観光ツアーも人気
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お客さんのリクエストで生まれたという牡蠣料理。かき小屋で調理するアツアツの牡蠣フライや牡蠣飯は絶品!
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一番人気はもちろん焼き牡蠣。1kg1,000円、食べ放題は2,500円で提供する

島田水産かき小屋

所在地
広島県廿日市市宮島口西1丁目2-6
TEL
0829-30-6356
営業時間
10:00〜17:00 (平日) / 10:00~20:30 (土日祝)
定休日
不定休

取材・文

塩坂佳子(しおさか よしこ)

ライター、編集者。合同会社よあけのてがみ代表。『石巻さかな女子部』主催。
長く東京で雑誌の仕事をしていたが、東日本大震災後はボランティア活動をしに東北へ通い、2015年秋には宮城県石巻市へ移住。石巻市産業復興支援員を経て、2017年には合同会社を設立し、オリジナルキャラクターブランド『東北☆家族』や民泊『よあけの猫舎』を運営、印刷物やイベントの企画・編集、制作なども手掛ける。魚の街・石巻から日本の魚食文化復活を叫ぶ『石巻さかな女子部』部長としても活動を続ける。

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