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vol.41
2022.5.27

雑貨店に並ぶ干物の軌跡を振り返る。
有限会社山藤 山本 久美 さん

新鮮な魚が水揚げされる漁村には、美味しい干物がある。

南伊勢町田曽浦の有限会社 山藤|やまとう(以下、山藤さん)をお訪ねすると、大きな桜ブリを捌く男性たちと、旨味がたっぷり詰まった干物を手際良く串に刺す女性たちの姿がありました。

山藤さんといえば、骨なし串干物。骨なし串干物は2012年に発売されて以降、ジワジワと人気を集めていき、現在は百貨店や雑貨店、お土産物店など全国各地で販売されています。今回は有限会社 山藤の代表取締役社長 山本久美さん(以下、久美さん)に骨なし串干物の誕生から販路拡大に至るまで、色々とお話をお伺いしてきました。

山藤の骨なし串干物 製造現場の様子。

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「骨なし串ひもの」の加工場の様子。

骨なし串干物は、その名の通り「串に刺さった骨なしの干物」です。新鮮な地物の魚と伝統海塩(海の精)だけを使った山藤オリジナルの商品で、種類は生タイプと焼きタイプの2種類があります。焼きタイプは調理をしてからパック詰めし、高圧殺菌を施すことで常温販売可能。こだわり製法で手軽に場所を選ばず、美味しい干物を楽しめます。

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天日干しと乾燥機で仕上がった干物を、串に刺す様子。

— 「身の下で刺してしまうと、袋に入りません。魚の中では、特にカマスが薄くて硬い時は串に刺しにくいですね。」

袋のサイズ約18cmに収めるように、手際よく干物を串に刺していく従業員さん。みるみると骨なし串干物の山が出来上がっていきます。まさに、熟練技です。

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写真の魚は「サゴシ(小さいサワラ)」。

久美さん 「まだら模様を見たらサゴシって分かりますよね。シイラの串干物とかも、黄色っぽい皮を残してます。」

骨なし串干物を袋詰めした際、見た目でも魚種がわかるように工夫しています。身のみでも魚種がわかりやすい鰹やブリの骨なし串干物は皮なしです。

骨なし串干物の焼きタイプは、ガスで丁寧に焼き上げることが美味しいポイント。ガスで焼き上げる煙が、電気タイプのグリラーでは出せない干物の美味しさを引き立てます。一般的に連想する干物よりも一手間も二手間も時間をかけて作られる骨なし串干物は、これまでの試行錯誤や創意工夫がつまっていました。

コンセプトとデザイン制作。骨なし串干物誕生のお話。

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久美さん 「2012年に主人が、三重県のブランドアカデミーっていう勉強会に参加したのがきっかけでした。」

と地域デザイナーの梅原真さんの書籍「おいしいデ」を久美さんは開きます。梅原真さんは先代社長の山本藤正さんのことを、「成功するひとはカラダが動きいいことと、チョット変なヒトである」と綴っています。

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骨なし串干物のデザイン【山藤さん提供】

骨なし串干物のデザインに起用されている先代社長の藤正さんは、久美さんの旦那さんです。明るくバイタリティ溢れる藤正さんは、たくさんの方に慕われる名物社長でした。2019年8月にガンでお亡くなりになり、妻の久美さんが社長職を引き継ぎました。

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お取引先の居酒屋さんで提供されている海鮮魚串【山藤さん提供】

三重県ブランドアカデミーで「新しい形の干物作りに取り組むこと」をテーマに、干物を油で揚げたら美味しいかもしれないというアイデアが浮かびました。それなら、串に刺さっていた方が良いという会話がきっかけとなり、「骨なし串干物」が誕生しました。

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こちらはアジの骨なし串干物 焼きタイプ
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開封後そのままパクっと食べられます。
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裏面には藤正さんイラストが
「山藤のこだわり」を紹介。

展示会に継続参加。生活雑誌の掲載を皮切りに、脚光を浴びる。

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展示会での山藤ブースの様子【山藤さん提供】

久美さん 「最初は全然売れませんでした。」

骨なし串干物を商品化したら、展示会で発表しましょうという三重県ブランドアカデミーでのアドバイスから、東京ビックサイトやスーパーマーケット・トレードショーに出展を果たした山藤さん。最初はディスプレイもわからない状態からで、名刺を200枚・300枚と集めてみたものの、新規取引には繋がりませんでした。

実は骨なし串干物は開発当時、生タイプのみで焼きタイプはありませんでした。山藤さんは1年目の展示会への出展経験を元に、試行錯誤を重ねて次の年には焼きタイプを完成させます。

そして、転機が訪れました。それが、婦人生活雑誌のお取り寄せを担当するバイヤーとの出会いでした。

久美さん 「歴史ある雑誌に掲載してもらえてから、百貨店さんなどの取引が広がっていきました。」

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技術を活かして、ペット用の干物もビジネスパートナーと展開中。

山藤さんでは宿泊施設で提供される干物やペット用の干物づくり、海外事業者との取引もされています。様々な取引先とのご縁が広がったのは、展示会に参加し続けていたからと久美さんは話します。

久美さん 「商品を気に入ってくれている問屋さんが展示会に顔を出してくれて、これ(骨なし串干物)売ってくださいよって冗談っぽく伝えたんです。そうしたら、一気に20店舗くらい注文をもらいました。そこから10店舗以上、リピート注文してくれています。」

顔見知りの問屋の社長さんに何気なく伝えた一言。おそらく、社長から営業担当者へ骨なし串干物のことが以前よりも伝わった結果、売上増加につながりました。展示会や商談会に継続的に参加し、新しい取引先との交流はもちろん、バイヤーと顔見知りになって会話をすることの大切さが分かります。そんな山藤さんの「継続する」という考え方が、積もり積もって良いご縁につながっていきました。

町に働く場所があるということ。

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魚の加工場にて、仕入れた桜ブリを捌いている様子。ピンクの男性が久美さんの息子 藤心さん。

久美さん 「南伊勢町で働く場所があったら、絶対ではないけども働いてくれる人たちもいると思うんですよね。子供を育てるにしても、育てやすいと思いますし。」

山藤さんの工場では、20代の若者が多く活躍しています。干物製造は保育園児や小学生の子どもを持つパートさん達が、加工場では久美さんの息子の藤心さんが中心となり魚を捌いています。もし、子どもが熱を出してしまったらLINEメッセージで休みの連絡をもらえたらそれで良い、と話す久美さん。3人の子供を育ててきた母親だからこそ、子育て世代の気持ちを理解しています。

久美さん 「1日や2日休んでもらっても、いっぱい知り合いがいるので、ちょっとバイトに来てって言ったら来てくれる人もいます。いざとなったら、私も入るでな。」

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藤正さんならどう考えるだろう。これからの未来のことに対して、ふと思う時もあるそうです。商工会女性部の部長や三重県商工会女性部連合会の副会長なども務める久美さん。町のより良い未来に向けて、行政や団体と協力しながら取り組んでいきたいとも話しました。

南伊勢町田曽浦で感じた、時代を切り開いていく挑戦。

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南伊勢町田曽浦は鰹の水揚げが日本一だった町です。山藤さんは創業当時、かつお節を製造されていました。その後、干物屋さんに事業転換して、藤正さんの代でネット通販をいち早く導入(2002年)。楽天市場の国産伊勢海老の通販部門で何度も1番に輝いています。

かつおぶし屋から始まり、干物屋、そしてネット通販や骨なし串干物を開発。約50年、時代の変化に対応しながら世代を越えて新しい挑戦を続けてきたからこそ、山藤さんの今につながっています。

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久美さんにご案内いただき、海沿いの道を歩いて辿りついた「炊しきの像(かしきのぞう)」。カツオ船で炊事番を任される少年の像を見上げて足元に目を向けると、

˙ 自然が育てた子供は強い
˙ 自然が育てた子供は優しい
˙ 自然は人を育てる

と石碑に記されていました。今も昔も変わらない町の魅力なんだなと、そんな印象を受け取りました。

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有限会社 山藤


住所
〒516-0222 三重県度会郡南伊勢町田曽浦3907-1
電話
0599-69-3489
公式WEB
https://yamatou.net/

取材・文

濱地雄一朗 | Yuichiro.Hamaji

三重県で活動する地域ライター。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごしています。専門は物産と観光、アクティビティ体験など。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。

三重県お土産観光ナビ
https://mie-hamaji.com

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