福岡空港から35分。韓国までは直線距離で49.5kmに位置し、国境の島と呼ばれている長崎県対馬。海岸線のほぼ全域にリアス式海岸が発達し、断崖絶壁もしばしば見られ、中には標高差100mに及ぶものもあります。対馬海流や島のその複雑な地形の影響で、豊富な魚種や安定した海水温が維持され、オールシーズン釣りを楽しめる、釣り人にとってのメッカとしても知られています。
そんな対馬に、水産女子として活動をされている犬束ゆかりさんを訪ねました。
犬束さんは対馬生まれの対馬育ち。同じく海をこよなく愛するご主人と丸徳水産を立ち上げました。養殖業や加工販売、飲食店事業を手がけ、対馬の味を全国に届けています。
対馬の豊かな海のことをキラキラとした目で話す犬束さん。対馬愛にあふれ、対馬の漁村、同時に全国の漁村も直面している問題に、いち早く取り組んでいます。
地球温暖化など、環境の変化による海流の変化などで海水温が上がり、対馬周辺では通年、海藻を食べるイスズミやアイゴ、ガンカゼ(ウニの仲間)等が増え続けています。それらは海藻を食べるため、1980年頃から海藻類が磯から姿を消し、海の中が砂漠のようになってしまう磯焼けが見られるようになりました。
環境バランスを整えるために、県や漁協が2019年頃から増えすぎたイスズミやアイゴ等を捕獲し、駆除を進めています。そのおかげか、犬束さんたちの所属している美津島町漁協近辺での駆除は非常に進んでいるそうです。
駆除された魚の有効活用ができないか、と考えた犬束さん。最初は、他の漁師たちから、イスズミなんて面倒くさい、他の魚が獲れているのだからイスズミに手を出す必要はなかろうと批判的でした。まずはそこを変えねばと、とにかくイスズミを使った料理を毎日のように組合長に味見してもらい、女性部の考えや、やろうとしていることを訴え続けた結果、漁協や地域全体が海を守るためにイスズミの駆除や利用に協力してくれるようになりました。次第に全島の組合長をはじめ、組合員からも「いいことをしよるね」と声をかけられるほど、風向きが変わりました。
今では、イスズミや他の未利用魚が揚がったときは犬束さんに届けられ、商品化させてもらえるようになりました。また、県庁の食堂や、学校給食にもイスズミを使った料理が使われています。厄介者とされてきたイスズミが価値ある魚に変わってきたのです。
取材に訪れた日、犬束さんが用意してくれたイスズミは60cm以上の大きなもの。イスズミは、別名“ねこまたぎ“と呼ばれ、猫でも食べないほど美味しくない魚と言われています。実際、目の前にあるだけで表現しようもない匂いが漂ってきます。
早速捌いて2m以上の長さの胃と腸を出します。その内臓を捌くと、中にはぎっしりと詰まった海藻類。一尾のイスズミだけでかなりの量の海藻を食べていることが分かります。
イスズミから内臓を除いたら、丈量はかなり減ってしまいます。大きさの割に食べられる部分が少なく、しかも身の方にまで独特な匂いがしみこんでいます。
まずはお刺身でいただきましたが、口に入れた瞬間に磯臭い。その匂いがずっと口の中に残ってしまい、とても食べ進めることができません。ソテーや照り焼きにしても、同じように鼻につく匂いがいつまでも残ります。
最後に商品化されたイスズミのメンチカツを頂くと、磯臭さがなく、とても美味しく食べやすい。イスズミは捌いたあとに海水に長時間さらすと臭みがなくなるそうです。下処理をしたイスズミを食べやすいメンチカツに仕上げたところ、老若男女に喜ばれています。
何度も試作を繰り返し、組合長をはじめ漁協の方々に試食をお願いして完成したこのメンチカツは、2019年Fish-1グランプリのファストフィッシュ部門でグランプリを受賞しました。また2021年長崎県水産加工振興祭水産製品品評会で水産庁長官賞を受賞し、高く評価されています。
本来は廃棄処分されていた食害魚が、価値ある食材へと変わる。漁師にとっても環境にとってもよくなる。
「海に生かしてもらっているから、海や地元に恩返しをしたい。対馬の海を守るための活動を広げたい。創意工夫をこらすことで食べられてこなかった魚を惣菜に変えたい。壮大なプロジェクトが成功することを願って、そう介(すけ)プロジェクトと名付けました。磯焼け問題にさらに取り組んでいきたいです。」と話す犬束さん。
「海から受けた恩恵に感謝し、海への恩返しのため、未来の子供たちのために、藻場の回復と再生を目指し豊かな対馬の海を残す。この目標が日本の漁村にもつながっていけば、と思います。」
そんな犬束さんの思いのこもった、イスズミのレシピを紹介します。
イスズミごまだしうどん
材料
イスズミ (下処理済み) | 100g |
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薄口醤油 | 60cc |
濃口醤油 | 50cc |
みりん | 50cc |
いりごま | 50g |
砂糖 | 3g |
うどん | 2玉 |
かまぼこ 小ネギ | 適量 |
作り方
- ① イスズミはグリル等で焼き、身をほぐす。
- ② いりごまをすり鉢ですり、イスズミを加えてすりながら他の調味料を混ぜ合わせて、ごまだしを作る。
- ③ うどんは茹でて器にもり、②のごまだしを大さじ2杯とかまぼこや小ネギものせる。
- ④ お湯を注いでいただく。
大分県佐伯市の郷土料理ごまだしうどんをイスズミで作りました。あっさりとしたクセのないごまだしになります。ごまだしはお好みで入れる量を増やしても。ごまだしは、マヨネーズと合わせてディップにしたり、ご飯に混ぜて焼きおにぎりにするなど、アレンジも楽しめます。
イスズミのツナサンド
材料
イスズミ (下処理済み) | 100g |
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玉ねぎ | 1/4個 |
きゅうり | 1本 |
大葉 | 4枚 |
サンドイッチ用食パン | 4枚 |
マヨネーズ | 大さじ4 |
塩 胡椒 | 適量 |
作り方
- ① イスズミはグリル等で焼いて身をほぐす。玉ねぎはみじん切りにして一度水にさらす。きゅうりは5mm幅の斜め薄切りにする。
- ② イスズミに水気を絞った玉ねぎ、マヨネーズ、塩、胡椒を混ぜ合わせる。
- ③ サンドイッチ用食パンに②ときゅうり、大葉をのせてパンで挟み、落ち着かせてからカットする。
イスズミをツナのようにほぐしてマヨネーズと合わせ、食べやすいサンドイッチにしました。
イスズミ de グラタン
材料
イスズミ (下処理済み) | 100g |
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玉ねぎ | 1/2個 |
大葉 | 5枚 |
バター | 30g |
薄力粉 | 大さじ3 |
牛乳 | 250cc |
味噌 | 大さじ2 |
チーズ | 30g |
塩 胡椒 パン粉 | 適量 |
作り方
- ① イスズミは一口大に切る。玉ねぎは薄くスライスし、大葉は1cm幅に切る。
- ② フライパンにバターを熱し、イスズミを両面ソテーする。
- ③ 一度取り出し、続けて玉ねぎを炒める。しんなりしたら、イスズミを戻し入れ、薄力粉をまぶし、粉っぽさがなくなるまで混ぜる。
- ④ 牛乳を加えて、とろみがでるまで煮る。
- ⑤ 味噌、チーズ、大葉を加えて、チーズが溶けたら耐熱皿に移し、パン粉をふって、オーブントースターでパン粉に色がつくまで焼く。
イスズミは淡泊な魚なので、こってりとしたホワイトソースやチーズがよく合います。味噌とチーズで、ご飯にもあうグラタンです。
イスズミのロールカツ
材料
イスズミ (下処理済み) | 8cm幅6枚 |
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生ハム | 6枚 |
大葉 | 6枚 |
ベビーチーズ | 2個 |
薄力粉 溶き卵 パン粉 揚げ油 レモン | 適量 |
A タルタルソース
卵 | 1個 |
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玉ねぎ | 1/8個 |
小ネギ | 1本 |
マヨネーズ | 大さじ3 |
レモン汁 | 小さじ2 |
塩 胡椒 | 少量 |
作り方
- ① イスズミはラップで挟んで麺棒などで、ちぎれないように軽く叩き、薄くのばす。ベビーチーズは縦に3等分に切る。
- ② 塩、胡椒をふって、大葉、生ハム、チーズをのせて手前から巻き、薄力粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつける。チーズが流れ出ないように端をぎゅっと押さえる。
- ③ 160°Cの揚げ油できつね色になるまで揚げる。
- ④ Aの卵はしっかりと茹で、固めのゆで卵にしてつぶす。玉ねぎはみじん切り、小ネギは小口切りにし、他の調味料と混ぜ合わせる。
- ⑤ 皿に盛り、タルタルソース、カットしたレモンを添える。
生ハムの塩気があるので、イスズミにふる塩は控えめに。生ハムの代わりに梅干しもおすすめです。
イスズミのベーコン巻き
材料
イスズミ (下処理済み) | 半身 |
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ベーコン | 8~10枚 |
バター 塩 胡椒 醤油 | 適量 |
小ネギ | 少量 |
作り方
- ① イスズミをスティック状に切り、塩、胡椒を振る。
- ② ベーコンで巻き、爪楊枝で留める。
- ③ フライパンにバターを熱し、巻き終わりを下にして焼く。全体に焼き色がついたら、醤油少々を絡め、お皿に盛り、小ネギを散らす。
有限会社丸徳水産
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