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vol.67
2024.1.5

海の中で分解されるプラスチックを開発
群馬大学 食健康科学教育研究センター 粕谷 健一 教授/鈴木 美和 助授

プラスチックごみは、世界中で環境問題を引き起こしています。解決策のひとつとして、海の中で分解し、水と二酸化炭素になるという画期的なプラスチックの研究が進んでいます。数年後には、イノベーションを起こす代替材料として、おおいに期待される「海洋分解性プラスチック」。群馬大学の研究室でこれらの開発を進める粕谷健一教授と鈴木美和助授にお話を伺いました。

魚よりもゴミが多くなる30年後の海

私たちの暮らしを豊かにしてくれる反面、プラスチックは世界各地で海洋ごみの約7割を占めると言われています。30年後には、海洋中で魚の総重量をプラスチックごみが超えるという試算もあるほどです。

プラスチックがゴミになると、何が問題かというと、海の景観が悪くなるだけでなく、例えば漁師の手を離れた漁網が海の中を漂い、延々と魚をとり続けていたり(ゴーストフィッシング)、海洋生物の体に巻き付くなどして直接、被害を与えます。最近では、プラスチックごみが砕けて小さくなり生じたマイクロプラスチックが、海洋で非常に薄い濃度で存在する毒物を吸着しているということもわかってきました。魚や人がそれらを誤って摂取することにより、病気を引き起こすことが危惧されています。

もちろん世界では、プラスチックを使わないでおこうという減容化や、リサイクルの推進、エネルギーとしての回収などさまざまな方策が立てられてきました。しかしいずれも限界があり、問題の解決とまでは至りません。しかも陸上で不適切に処理されたプラスチック のうちの約6割が、海洋に流れ出ることがわかっているのです。

そこで注目されてきたのが、プラスチックを微生物に分解させ、生態系の中でリサイクルしようという「有機リサイクル」という考え方です。これに利用できるプラスチックとして、微生物の作る酵素で分解し、その分解物を微生物が食べることで最終的には水と二酸化炭素にまで分解される「生分解性プラスチック」が注目されました。しかし、これは今まで、普及してきませんでした。なぜなら、使っている間にも、徐々に分解が始まり弱くなってしまうことが問題視されてきたからです。また、既存の「生分解性プラスチック」は、海洋ではほとんど分解しないということがわかっており、これも大きな問題となっていました。

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学生時代から釣り好きでルアーなどのゴミが海に浮かんでいるのが気になっていたという粕谷健一教授。
研究室には30名ほどの研究者とスタッフを抱える。

分解のタイミングと速さを制御

そこで私たちが取り組んでいるのは、「使っている間は普通のプラスチックと同様、軽くて強いという性質を保ちながら、 使い終わったら分解が始まる」という「海洋生分解性プラスチック」の開発です。人の都合に合わせて分解のタイミングと速さをコントロールするという、非常に都合のいいプラスチックです。

分解のタイミングをはかる方法として「スイッチング」という考え方を導入しました。
例えば、酸素がない状態になると分解のスイッチが入り、最終的には微生物の力で水と二酸化炭素にまで分解されるというものです。漁具などで応用された場合では、漁師さんが海で使っている間は大丈夫ですが、海の底に落ちた時、海底の泥の中で酸素がなくなったことを合図に漁具の分解がスタートします。この材料の実用化は検討の段階ですが、この材料のコンセプトは実験室内で実証されています。

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左のシャーレの中に入っているフィルム状のものが元のプラスチック。
右が分解後で最終的には水と二酸化炭素にまで分解される。

さらに、プラスチックの材料の中に、最初から微生物を入れてしまうという方法も開発しました。プラスチックは高温で熱しないと変形や成形ができないので、通常、微生物を練り込もうとしても死んでしまいます。しかし環境中には、高温でも死なない微生物が存在します。我々は、この状態になるような微生物で、なおかつ、プラスチックを分解するグループを環境中から探し出し、それを生物製剤として、プラスチックに練り込むことに成功しました。

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材料の中に休眠状態の微生物を練りこんでおき、時間が経つと
微生物が覚醒したようになり、プラスチックを分解、食べ始める。

群馬大の研究室では、日本各地の海水を使って、さまざまな実験を行っている。時には鈴木美和助教自身が潜水艇に乗り込み、深海での実験も行う。

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群馬大の研究室では、日本各地の海水を使って、さまざまな実験を行っている。
時には鈴木美和助授自身が潜水調査船に乗り込み、深海での実験も行う。

2029年には社会実装を目標に

この内閣府が主導する「ムーンショットプロジェクト」は2020年にスタートし、国と企業と私たち研究チームが協働して、2029年には生分解のタイミングやスピードをコントロールする海洋生分解性プラスチックの社会実装を目指そうというものです。具体的にどのような商品が世に出るのかは、まだわかりませんが、おそらく初めは漁具や農具になるのではと予想しています。具体的には漁礁やブイ、畑で使用するマルチフィルムといった、用途が現実的で、これらに対しては、我々が開発した最良の性質は、既に代替可能なところまで来ています。

ただ、コスト面ではやはり高くついてしまうため、広く世の中に普及させるにはさまざまな調整が必要です。逆に、従来のプラスチックは安いからこそ、ここまで我々の生活に普及してきました。製造コストが安いうえ、製造責任を問わず、ゴミ回収に対してデポジットを代金に入れ込むようなこともしてこなかったのです。家電や車などでは、そのリサイクル料金も最初の代金に入っていますね。それをプラスチックにもすべきだったのだと考えています。

例えばレジ袋の有料化と同じように、従来のプラスチックも使用にお金がかかるような仕組みにすれば、新しく環境に配慮した材料との価格競争力が拮抗します。値段が少ししか変わらないなら、多くの人が環境に良い方を使おうと思うのではないでしょうか。本当の意味でのイノベーションには、私たち研究者が新しいものを開発するだけでは足らず、社会的なアクションも大切です。一人ひとりが知って、考えると共に、プラスチックの使用を本気で減らすための仕組みづくりなども、持続可能な未来の創造には欠かせないと思います。

取材・文

塩坂佳子(しおさか よしこ)

ライター、編集者。合同会社よあけのてがみ代表。『石巻さかな女子部』主催。
長く東京で雑誌の仕事をしていたが、東日本大震災後はボランティア活動をしに東北へ通い、2015年秋には宮城県石巻市へ移住。石巻市産業復興支援員を経て、2017年には合同会社を設立し、オリジナルキャラクターブランド『東北☆家族』や民泊『よあけの猫舎』を運営、印刷物やイベントの企画・編集、制作なども手掛ける。魚の街・石巻から日本の魚食文化復活を叫ぶ『石巻さかな女子部』部長としても活動を続ける。

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