本土最南端の町、南大隅町。
「今まで食べたカンパチの中で一番美味しかった。」百貨店のバイヤーにそう言わしめた、ブランド養殖魚“ねじめ黄金カンパチ”の生産地だ。
ねじめ黄金カンパチが育つのは錦江湾の入り口付近。すぐそこは外洋となっているため、他の産地と比べて潮の流れが速く、より旨味が強く、臭みの少ないカンパチを生産することができる。
漁業者の中心メンバーが世代交代したのをきっかけに、販売促進に新しい風が吹き始めているのが、ねじめ漁業協同組合だ。
2023年6月から、組合長直轄の販売促進室を立ち上げ、室長となった桑鶴扶美さんにお話を伺った。
漁協職員に就いた経緯
筆者「桑鶴さんといえば販売促進のイメージが強いですが、普段の業務内容とその割合を教えてください。」
桑鶴さん「販売促進室と購買業務(漁業に使う資材関係)、保険業務(漁船保険や養殖魚関連の保険を除く)の3つ※で、割合は100:100:100です(笑)」
※ 取材当時
筆者「え、桑鶴さん3人いますか?(笑)」
そんなバイタリティ溢れる桑鶴さん。ご出身は南大隅町で、ご実家は海のすぐそば。
桑鶴さん「小さい頃から自然が大好きでした。父は客船の調理師で普段家にいなかったので、近所に住む親戚のおじさんたちと魚釣りをして遊んでいました。親戚は海や船に携わる方が多いです。一時期は、自分も父のように客船に乗る仕事がしたいと思ってました。巡り巡って、今は自分も海の仕事に携わっています。」
聞いたところ、桑鶴さんは大学卒業後、海とは全く無縁のお仕事を経てから漁協の職員に就いたとのこと。その経緯を伺った。
桑鶴さん「学生の頃はどっちかというと人見知りの方で、人に苦手意識をもちつつも、人に関わる仕事に興味がありました。小学生の頃から続けていた書道を仕事にしたかったのと、尊敬できる先生に影響を受け、大学卒業後は書道と国語の高校教員として8年ほど勤務しました。天職だと思ったのですが、忙しすぎて体調を崩し、自分の限界を感じてしまって。その後、図書館の司書に転職しました。」
図書館の司書として、桑鶴さんが学んだのは接客サービスと公共性のバランスを保つことの難しさだった。
桑鶴さん「矛盾してるじゃないですか。サービスと公共性って。」
線引きの難しさを感じつつ、6年ほど図書館の司書を勤めたタイミングで、桑鶴さんのお父さんが末期がんであることが知らされる。お父さんの自宅療養をサポートするため、桑鶴さんはちょうど職員を募集していたねじめ漁協への転職を決意。
かっこいい仕事
筆者「漁協へ転職後にすぐ販売促進を担当されたのでしょうか?」
桑鶴さん「いえ、色々あってまずは購買業務を担当しました。転職して1日目で辞めたいと思いましたが(笑)。」
桑鶴さんが最初に担当したのは、漁業者が使用する資材を発注・販売・在庫管理する購買事業。予定とは違った配属先であったが、この購買という業務が漁業者と直接繋がるきっかけになった。
漁業者たちの顔も名前も分からない中、地道に人を知る作業。空いた時間があれば浜に積極的に顔を出し、漁業者個人ごとに必要な資材を把握。在庫切れしないように、資材の数量をデータ管理しやすい体制を整えた。そして販売場所に常駐することで漁業者の利用も増加。今まで教員や司書の頃に培った接客や管理のスキルが、マイナスではないと感じた経験になった。
桑鶴さん「そうやって漁業者の皆さんと直接コミュニケーションをとるようになって、浜の状況が知識として入って来るようになりました。外から見ると漁業者って力仕事のイメージがあるけど、実は魚や海の状態を見ながらエサの量や作業を変える、観察力が必要で繊細な仕事なんだと気づきました。寒くても海に潜って生け簀を見ないといけない時もあるし、シケの状態でも出荷に合わせて作業しないといけない時もある。かっこいい仕事ですよね。養殖って。」
小さな成功体験
漁協に勤めて3年目のとき、役員が世代交代し、ねじめ漁協は組合長をはじめ、理事会のメンバーが全員若い世代へと引き継がれることになる。
そして2022年、ジャパン・インターナショナル・シーフードショーへの出展が理事会で決定し、その担当がたまたま桑鶴さんに回ってきた。
それまで、販売促進に正直あまり力を入れていなかったねじめ漁協に、新しい風が吹き始める。
イベントに持っていける加工品もなく、刺身でしか勝負できない状態で大丈夫なのか?という声もあったが、漁協職員になってからねじめ黄金カンパチの美味しさに気づいた桑鶴さん。
桑鶴さん「この美味しさなら絶対いけるはずって思いました。」
桑鶴さん「購買のときに築いた漁業者との関係が良かったのか、または漁協に入ったばかりで怖いもの知らずだったのか。私だけじゃ絶対無理なので、もちろん出展を決めた理事のみなさんも行きますよね?と巻き込み(笑)、養殖業者メンバーと一緒に出展しました。」
実際にシーフードショーに出展し、ねじめ黄金カンパチの刺身を試食として提供したところ、想像以上にお客さんの反応が良く、理事メンバーは驚いたとのこと。
漁業者が普段当たり前だと思っていたカンパチの味が、当たり前じゃなかった。
この時の小さな成功体験が、ねじめ漁協の販売促進を新たにスタートさせた。
その後、博多の百貨店や鹿児島市内にて特産品のフェアへ次々に出店。販促活動が本格化した令和4年度におけるふるさと納税の申込件数は28件であったが、令和5年度は133件(※令和6年1月末現在)と急増。ねじめ黄金カンパチのファンは少しずつ、着実に増えつつある。
漁業者の苦労を知って湧くパワー
筆者「思い掛けず販売促進を担当することになったと思うんですが、私から見て桑鶴さんは販売促進の活動をされている時、楽しそうに見えます。」
桑鶴さん「人見知りの性格なので、販売促進が好きか嫌いかで言うと、実ははっきり好きと言えるわけではありません。イベントやフェアへの参加も、段取りとか過程がめちゃくちゃしんどいんです。だけど、一般の方から、ねじめ黄金カンパチが美味しいと直接聞けると、やっぱり達成感があるから、やりがいはあります。すっごい疲れるので、イベントの後は1週間くらい引きこもりたくなります(笑)。それくらい、自分でもパワーを注げているなあって思います。」
直接見て、聞いて、知った漁業者の苦労と、こんなに美味しいカンパチをもっと広めたいという気持ちが、販売促進に力を注げていることに繋がっているとのこと。
桑鶴さん「養殖業者さんたちがすっごい大変なこと、知っているんです。夏は暑い中、へとへとになって港に戻ってきたり。冬は北西風が強く吹く中、寒そうに戻ってきたり。そんな姿を見ていると、ちゃんと付加価値を付けて売っていきたいと思えます。ただ事務所に座っているだけだったら、そう思えてないかも。」
全国区を目指して
最後に今後の展望、やりたいことを伺った。
桑鶴さん「このPR活動を続けて、ねじめ黄金カンパチの名前を全国区にしたいです。あと、ねじめ黄金カンパチのファンクラブを作りたい!会員の第1号は私です(笑)。個人的にやりたいのは、書道と読書です。以前、教員として屋久島にいたときに自分の読書スポットがあったんです。小高い丘で海を眺められる場所。そこでまた読書がしたいです。」
おすすめの本は「ターシャ・テューダーのエッセイ集」で、スローライフや自然体をテーマにした、癒される内容とのこと。
本土最南端の町で吹き始めた新しい風。
今後はねじめ漁協として、カンパチ専用の醤油開発とふるさと納税での展開、町役場や百貨店を巻き込んでのフェア開催など予定していて、ねじめ黄金カンパチの全国区へ向けた準備が進みつつある。
ねじめ漁協
ねじめ漁協直営
「おさかな天国 さかな館」
- ウェブサイト
- https://sakanakan.jp/
ねじめ黄金カンパチはふるさと納税各種サイトでご注文いただけます。
「ねじめ黄金カンパチ ふるさと納税」で検索ください。