漁村の活動応援サイト
vol.22
2021.6.14

お魚離乳食で循環する街と漁村株式会社ディーグリーン五味 ゆかりさん

mogcookと書かれた箱を開けると、中から皮付きの魚の切り身が出てきます。綺麗に真空パックされた、3種類の魚が約10gずつで合計15袋。

食卓に並べるには小さすぎるサイズの魚の切り身。初めて見た人は、

一体、こんな小さな魚の切り身を誰が食べるのだろう?

と、疑問に思うかもしれません。

実は小さな魚の切り身を食べるのは、ビールを片手に持ったお父さん・・・ではなく、小さな赤ちゃんです。

今回、取材させていただいたのはお魚離乳食「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」を運営している株式会社ディーグリーンの五味ゆかりさん(以下、五味さん)。顧客アドバイザーとして活躍する五味さんにお魚離乳食のお話を伺うと、大切な子どもを育てる家族へ届けられる、漁村の人々の想いが溢れていました。

ママを応援お魚便 mogcook/モグックとは

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紀北町 紀伊長島漁港の様子

五味さんが働く株式会社ディーグリーンは、三重県紀北町にある、人とものをつなぐデザインを中心とした会社で、WEB制作や冊子やパンフレットなどの印刷物制作、英語の翻訳サービスなどデザインを中心に事業者をサポートしています。

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代表取締役の東城さん(以下、東社長)は、大学や海外でデザインを学んだ後に故郷の紀北町で2002年に個人事業主として起業。2007年に法人化し、株式会社ディーグリーンを立ち上げました。ディーグリーン/dgreenは3つのd「development(発展)・digital(デジタル)・design(デザイン)」の意味があり、「green」には緑で木や森のように若くて成長するという意味があります。

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株式会社ディーグリーン オフィスの様子。写真左が五味さん。

そんなデザインを中心とした株式会社ディーグリーンが2013年に新たな挑戦として新事業を立ち上げます。それが「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」です。

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    お魚離乳食を食べる赤ちゃんの様子 写真提供:株式会社ディーグリーン
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    美味しそうなお魚離乳食 写真提供:株式会社ディーグリーン

きっかけは東京に住む東社長の紀北町育ちのご友人。市販の離乳食に使われている魚に不安を感じ、旬の地元の魚で離乳食サービスを形にしてほしい、と話があったそうです。「美味しい地元の魚はどうしたら売れるのか?」、常日頃から考え続けていた課題に取り組める好機と捉えて、「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」が始まりました。

紀北町のお隣 尾鷲市の管理栄養士さんのご協力の元、赤ん坊が食べても良い魚を厚生労働省の公開情報を参考にしながら調べ、地元の魚を加工した試作品が出来上がります。2014年2月には300名の子育て世帯を対象にモニター調査を実施。

お魚離乳食の魅力は何といっても、美味しい魚を手軽に調理できること。湯煎なら沸騰したお湯に3分、電子レンジならお皿に取り出してラップにかけて500wで約30秒で調理ができます。モニター調査は好評で手応えを得て、2014年7月には「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」の専用WEBサイトを立ち上げ、オンライン販売開始と第1回目の商品が発送されました。

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スチーム加工され真空パック詰めされた魚の切り身。

商品発送は100件以上で、とにかく慌ただしかったと当時を振り返る事業責任者の立花圭さん。

そんな「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」事業がスタートを切ったタイミングで、心強い仲間が株式会社ディーグリーンに入社します。顧客アドバイザーを務める、五味さんです。

五味ゆかりさんのお仕事

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生まれも育ちも紀北町な五味さん。mogcookの仕事をはじめて約6年、縁の下の力持ち的な役割を担い続けています。普段のお仕事はデスクワークが中心で、「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」の注文管理やメールや電話でのお客様対応、商品の発送作業、連携事業者との生産管理など。

五味さん「お魚って離乳食に使えるんだ、最初はそこからでした。」

五味さんは前職でネット販売管理の経験を持ち、魚が豊富な紀北町で新たに始まった「お魚離乳食」に興味を惹かれたのが、株式会社ディーグリーンで働くきっかけとなりました。

「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」のお魚離乳食は、大きく分けて以下の4種類。

  • 白身魚3種類のみ、5ヶ月目からの「はじめてのお魚コース」15パック(1パック10g入り)
  • 白身魚と赤身魚と青魚の中から3種類、9ヶ月目からの「お魚大好きコース」15パック(1パック10g入り)
  • 白身魚だけをフレーク状にした、5ヶ月目からの「お魚フレークコース」
  • 離乳食を卒業されたお子様向けの、「幼児食コース」30gサイズ×7パック

5ヶ月目〜幼児食、毎月お魚離乳食が届く定期コースから1箱購入まで、お客様は幅広く商品を選択できます。

お魚離乳食の中で一番人気は「お魚大好きコース」で、他にも外出時に安心して離乳食として食べられる常温保存可能な「鯛のおかゆ」シリーズやお野菜の離乳食、大人向けのおかずと商品ラインナップが充実しています。

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おかゆシリーズは店頭でも販売(尾鷲市「おわせお魚いちば おとと」にて)

「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」の仕事をはじめてからは、特に魚にどんどん詳しくなっていったと話す五味さん。その理由のひとつに、自然と魚に詳しくなり好きになってしまう、「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」を注文したお客様へのサービスがありました。

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    魚の切り身10g×3とお魚図鑑(オモテ面)左から「ヘダイ」、「サバ」、「カガミダイ」
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    お魚図鑑(ウラ面)「平鯛(へだい)」

お魚離乳食と合わせて届く魚図鑑カードを見たお客様から、「どんな魚が届くのか楽しみ。」、「子どもが大きくなったらお魚図鑑を見せたい」という声。

実際にお魚離乳食に使われている魚の特徴がまとめられたお魚図鑑カードは、食材の安心安全に加えて、街で暮らす子育て世代にとっての驚きやワクワクを生み出していました。

五味さん「皮なしでも十分美味しいんですけど、皮があったほうがみずみずしいです。皮が苦手なお子様には、はずして御召し上がりいただけます。」

お魚離乳食は皮付きであることも大きな特徴です。販売当初は皮を取り除いて加工していましたが、「魚の皮には旨味や栄養が豊富」という料理家のアドバイスを取り入れ、皮付きにしたたことで、切り身の見た目から魚の種類の区別もつくようになりました。

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mogcook(モグック)だより

さらにお客様の元には、旬の話題をまとめた「mogcookだより」や離乳食レシピカードも届きます。また、500以上のオリジナルお魚離乳食レシピは会員サイトにて登録無料で公開しています。時短になるお魚離乳食と豊富なレシピで忙しいママを徹底サポートしながら、「お魚図鑑」や「mogcookだより」で大切なお子様に食べさせるお魚を見える化してくれる「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」。

事業者に寄り添い続けるデザイン会社だからこそのアイデアが、mogcookと書かれた箱に詰まっています。

「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」を作り上げる
地元の連携パートナー

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連携パートナーのお二人と打ち合わせをしている五味さん

場所が変わり、ここは紀北町のお隣尾鷲市。「お魚離乳食の美味しさ」について、五味さんに加えて、当サイトで取材させていただいたつぐみ工房のつぐみさんと、そのお姉さんのかよさんにお話を伺いました。実はお二人は、「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」を支える大切なパートナーなんです。

五味さん「mogcookの魚を初めて試食した時、やっぱり地元の魚って美味しんやなって思いました。」

つぐみさんやかよさんをはじめ、お魚離乳食を一緒に作り上げるパートナーが「お魚離乳食の美味しさ」を支えていました。

お魚離乳食が出来上がるまで

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尾鷲漁港で魚を仕入れる様子
写真提供:株式会社ディーグリーン

お魚離乳食で使われている魚は、紀伊長島漁港と尾鷲漁港に水揚げされたもの。かよさんは、尾鷲漁港で魚を仕入れる担当です。

お魚離乳食は月に何百件もの発送があるため、安定供給のためには在庫管理がとても重要です。かよさんと五味さんは在庫数を確認しながら、お魚離乳食に適した魚で、かつサイズや仕入値を考慮して、新鮮な魚を競り落とします。

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仕入れた魚をさばく様子
写真提供:株式会社ディーグリーン

かよさん「最近はイサキやトビウオの水揚げが少ないな。ムロアジは今年は多かったわ。」

漁港にどんな魚が水揚げされるかは、時期によって異なります。「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」事業がはじまってから約6年間、お魚の顔ぶれも移り変わります。

かよさん「ムツは年中獲れるけど、離乳食には使えんでなぁ。美味しいんやけどな。」

微量の水銀が体内に蓄積されるため、妊婦さんや赤ちゃんの食事には適さないムツ。妊婦さんや赤ちゃん以外の人が食べる分には、体外に排出されるため問題ありません。他にもブダイは赤ちゃんに食べさせるには身が固すぎるなど、赤ちゃんが美味しく食べられる魚の知識を日々、積み重ねています。

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切り身をスチーム加工している様子
写真提供:株式会社ディーグリーン

かよさんは仕入れた魚を三枚に下した後は、つぐみさんにバトンタッチ。切り身を一枚一枚丁寧に扱いながら専用用器でスチーム加工していきます。

つぐみさん「蒸すと身が縮んでくんさ。魚によって蒸す時間もかえとるでな。」

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スチーム加工を終えた魚の切り身
写真提供:株式会社ディーグリーン

そして、蒸された切り身を冷まし、真空パックにして「お魚離乳食」の完成です。

つぐみさん「お魚離乳食の魚は、私らが食べてきたものと大概は一緒。今は共働きも多いから、mogcookのお魚離乳食は助かるわな。」

月に1回、定期購入コースのお客様へ「お魚離乳食」を発送するため、かよさんにつぐみさん、さらにパートさん2人と五味さんの5人がつぐみ工房に集まります。

「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」が始まった当初は、発送に3時間以上かかっていた発送作業も約6年経った現在は2時間に。

五味さん「みんな慣れてきて、めちゃめちゃ早くなってるんですよ。」

魚を食べて育ち、魚で子育てをしてきたかよさんにつぐみさん。日本全国に届けられてきた「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」のお魚離乳食には、そんな漁村で育ったお二人だからこその愛情が詰まっていました。

都会生まれ「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」育ち

定期購入のお客様から、電話で問い合わせを受けた五味さん。何でも、鯛があまり食べられない子どもが「ある魚」は食べるというお話でした。

「ある魚」の正体は・・・イラ。思っても見なかった魚のご要望に、五味さんも電話越しに驚きます。特別に鯛とイラの内容を差し替えて対応し、お客様は感謝の言葉をいただきました。

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こちらがイラ
写真提供:株式会社ディーグリーン

五味さん「お客様からのありがとうは、やっぱり嬉しいです。」

2014年に「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」のお魚離乳食を食べて育った赤ちゃんは、現在(2021年)は小学校低学年になっています。日本全国にこれまで届けられたお魚離乳食は約160,000食。日本全国の元気な子どもには、実は「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」育ちという共通点があるかもしれません。

ママを応援お魚便 mogcook/モグック

WEB
https://mogcook.com/
Instagram
https://www.instagram.com/mogcook/

株式会社ディーグリーン

住所
三重県北牟婁郡紀北町東長島2399-1
TEL
0597-37-4080
WEB
https://www.dgreen.jp/

取材・文

濱地雄一朗 | Yuichiro.Hamaji

三重県で活動する地域ライター。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごしています。専門は物産と観光、アクティビティ体験など。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。

三重県お土産観光ナビ
https://mie-hamaji.com

編集後記

つぐみ工房に訪れた際、3人の会話に耳を傾けていると、「いつもありがとう」と感謝を伝える五味さんの姿が目に止まりました。五味さんやディーグリーンの皆さんに、かよさんやつぐみさんたち連携パートナー、そして「ママを応援お魚便 mogcook/モグック」を利用するお客様たち。

感謝を伝えて、巡り巡って感謝で返ってくる、そんな循環が漁村と街を回っているように感じました。

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