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ホタテ貝の選別や穴の打ち直しをする海の子作業所の利用者たち。
vol.46
2022.7.25

「彼らに何ができるのか?」の先へ、鳥羽志摩の水福連携
三重県鳥羽市 海の子作業所・五っぽ

担い手不足の水産業と、障害者の就労や活躍の場を求める福祉のマッチング “水福連携”。今回は三重県鳥羽市を中心に取材した。仕事をしつつ、福祉サービスの利用者でもある彼らを、周囲はどうサポートしているのか。不安の眼差しには、どう応えるのか。

大量のコレクター作り

NPO法人海の子(濱口聡理事長)作業所は、漁業と観光の街、三重県鳥羽市大明西町にある。

取材にうかがうと、このNPOの職員で職業指導員の磯田健介さんが案内をしてくれた。もとは工務店の倉庫だった建物の中で、通所する利用者たちの内の11人が、それぞれ所定の台で手を動かしていた。

施設の清掃や弁当の出張販売など、いろいろな種類の仕事がある中で、この時期は牡蠣養殖の採苗に使うコレクター作りが中心となっている。

作業の中身は、中央に穴を開けたホタテの貝殻の盤に、ワイヤーと隙間をつくる小さな輪っかの部品を通し、連ねていくというもの。ホタテ貝72枚で1本の完成となるが、大きさがふぞろいな貝を重ねたり、輪っかを入れ忘れるとやり直しとなる。

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ホタテ貝と輪っかを重ねて完成したコレクター。

磯田さんたち職員は、仕事の指導や安全の注意だけでなく、部品の数をそろえたりと作業のフォローもする。利用者たちの出勤人数にばらつきがあり、体調の浮き沈みもある中で、スケジュールの管理もする。皆の集中力が高い日は、掃除を短縮して終了間際まで頑張ってもらうこともあるという。

「ノルマを課したくはないのですが、納期はありますから」

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海の子作業所に張り出された励ましや注意書きの言葉。

おしゃべり好きのメンバーもいるが、作業の時間帯は控えさせる。それも就労訓練の一環なのだそう。

そんな緊張感のある雰囲気も、昼休みになると一転、にぎやかな笑い声が響いていた。

「安ければうちも……」にならないように

三重県伊勢農林水産事務所水産室の担当者によると、県内の水福連携は、2013年度に若手水産技師らがワーキンググループを設置したのがきっかけとなった。そして、これによく応じたのが鳥羽・志摩両市の関係者だった。

県による指導者の研修や、漁協、水産研究所等の協力による試行を重ね、コレクター作りから、網カゴの修理、牡蠣養殖で海に沈めたロープを再利用するための釘抜きなどと、幅を広げてきた。

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再利用のため市内の作業所に運ばれた、釘の入ったロープ。

コレクター作りについては、この地域の牡蠣養殖業者から海の子作業所への注文を、鳥羽磯部漁業協同組合がまとめている。ホタテ盤やワイヤーといった資材を調達し、価格を調整するのも漁協の役目だ。

鳥羽磯部漁協の森田透総務指導課長は、こう説明する。

「原材料費や工賃を計算して、いくらで発注するのか。養殖業者は何十とあって(作業所と)直接にやりとりをすると、『安ければうちも……』となりかねません」

一方の福祉の側では、県市の職員も参加する鳥羽市地域自立支援協議会のしごと部会において、障害者就労支援サービスの事業所の責任者たちが仕事の請け負いや課題について相談している。

任される職場

このように、地域の行政や漁協、社会福祉協議会などが仲立ちをしているが、新しい芽は、むしろ現場同士のつながりから出てきているようだ。

さきほどの海の子作業所から5キロ川をさかのぼった鳥羽市松尾町にある、開設3年目の障がい福祉サービス事業所「っぽ」は、今年5月から、利用者の3人を近所にあるケアシェル株式会社(山口惠社長)の工場に派遣している。

家族従業員の山口慶子さんに依頼の経緯を聞くと、もともと、共通の知人を通じて五っぽを運営する株式会社アスリードプラス社長の谷水洋介さんを知っていたそうだ。顔を合わせた際に「一度、試してみませんか?」と持ち掛けるとトントン拍子で作業所への依頼が決まった。

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ケアシェルを開発し創業した山口社長。
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五っぽのメンバーに声を掛ける山口慶子さん(右)。

ケアシェルは、牡蠣養殖で出る牡蠣殻を再利用したもの。通常は粉末まで砕いて肥料としているが、それをさらに、独自の技術で固めて、指先ほどの玉にする。天然のアサリの種を採苗し、国産アサリを養殖するのに使用される。環境に負荷をかけないことも利点で、鳥羽から全国各地に出荷している。

五っぽのメンバーたちは、この工場で、機械や手作業での玉の選別や袋詰めをする。

職員も同行するが、こちらでは主に山口社長や慶子さんが直接、仕事を教えている。一日の作業量の目安を伝えつつも、細かい指示はしていないそうだ。休憩のタイミングも本人たちに任せている。

また、慶子さんは、メンバーたちをケアシェルが使われる現場の見学に誘った。「商品が実際にどう使われているのかを理解してもらったほうがいい」という狙いだ。

こうしたやり方が、メンバーたちの能力や性格にマッチしているようだ。

作業中のメンバーに声を掛けると、「時間が経つのが早くて、あっという間に帰る時間になっています」と答えてくれた。見守る谷水さんも、「生き生きとした仕事ぶり」と手応えを感じている。

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ケアシェルは網袋に入れて浜に設置する。(株式会社ケアシェル提供)

得意なことなら質も対価も上がる

ここまでの取材を振り返り、水福連携のハードルや効果を考えてみる。

以前の記事で紹介した志摩市社会福祉協議会の現場は、的矢湾のいかだの上で障害者が牡蠣養殖の作業をしていた。

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志摩市社協による牡蠣養殖では、障害者がいかだの上で働いている。

海辺での作業には、もちろん危険が伴う。船やいかだの上はもちろん、陸の上でもドリルや刃が付いた機械の使用にはけがの心配がささやかれる。ただ、谷水さんは「能力はあるのに、危険だからと仕事をさせてもらえない人もいます」と言う。ケアは必要だが、無闇に遠ざけては人材としての可能性を潰してしまう。

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作業所と地域の企業との交流に積極的な谷水さん。

谷水さんはさらに、「『これをやってください』ばかりでは楽しくない。仕事を選べて、得意なことなら高い質でできる。対価も上がるはずです」と続ける。その言葉には、障害者が支えられるばかりの存在でなく、地域や産業を支える存在だと信じる気持ちがにじむ。

彼ら、彼女らの色とりどりの個性は、この街で、水産業で、どのように輝けるのか。

その行方を、これからも見ていきたい。

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五っぽに併設されたアンテナショップとカフェでは、いろいろな顔のスタッフに出会える。

※ 「対価」とは工賃のこと。<生産活動に係る事業の収入>から必要経費を引いた額が支払われている。就労継続支援B型事業所での全国の平均工賃は、月額1万5776円(令和2年度)。

海の子作業所

住所
三重県鳥羽市大明西町18-4
電話
0599-37-7800
ウェブサイト
https://toba-uminoko.com/

障がい福祉サービス多機能型事業所 っぽ

住所
三重県鳥羽市松尾町196-1
電話
0599-20-0253
ウェブサイト
https://athleadplus.com/

取材・文

鼻谷年雄(はなたに としお)

ライター、編集者。ゲストハウスかもめnb.運営。
三重県出身。東京のテレビゲーム雑誌編集部勤務を経てUターン。ローカル雑誌編集者、地方紙記者として伊勢志摩エリアの話題や第62回伊勢神宮式年遷宮などを取材する。フリーランスとなって三重県鳥羽市にゲストハウスかもめnb.をオープン。同市の移住者向け仕事紹介サイト “トバチェアズ” のライター、伊勢志摩国立公園関連の出版物編集などを手掛ける。ときどきシャボン玉おじさんに変身。

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